浮かれた世界③

 ルイスは疑問を姉にぶつけた。すると、アイリーンは洗った顔をタオルで拭いてからその質問に答えた。


「まぁ、いわゆるパチンコの確変みたいなものよ。右打ちで、打てば打つほど出るみたいなね。」


 アイリーンはそう言ってタオルをバットに見立てて、野球の打者みたいに構えた。そして、フルスイングをしてみせた。アイリーンが振ったタオルはルイスの目の前を高速で通過し、その時に発生した風が彼の前髪をフワッと浮かせた。


「お金が湯水のように湧いてでた。だから、みんなが死ぬほど浮かれていたのよ。みんなの脳みそが溶けてドロッドロになっていたの。まるで、不倫を題材にしたお昼のドラマみたいにね。ちなみに、今のスイングはその時代の野球選手、ウォーレン・クロマティの真似よ。」


「へ〜。そんな時代があったんですね。」


 アイリーンの説明を聞いたルイスは興味深そうに言った。そんな彼にアイリーンは少し残念そうな様子で続けた。


「まぁ、その後バブルはしっかり弾けて、氷河期が到来したわけだけど。」


「あ!その氷河期っていうのは、前に姉さんから聞いたことあるので覚えてますよ!確か、マンモスっていう生き物がいた時代ですよね?」


「ええ、そうよ…ん?」


 アイリーンは首を傾げた。


「…まぁとにかく、ルイス君は不真面目だったその人達をもっと見習った方がいいわね。」


「いや〜、でも一度見てみたいですね。そのバブル期っていうのを。バブル期を迎えている異世界とかってないんですかね?」


 それを聞いたアイリーンは、顎に手を当てて天井を見た。そうやって少し考えた後、ルイスに人差し指を向けた。


「バブル期のように国や街が浮かれている異世界なら、この前発見したわよ。日本とは全然違う世界観だけどね。…行ってみる?」


 アイリーンはそう言ってルイスに微笑みかけた。ルイスはそれに対して微笑み返して「はい!」と言って頷いた。


 ルイスが同意したことを確認すると、アイリーンは再び自室に戻り、少し散らかった部屋の中で何かを探し始めた。そして、彼女がベッドの下から引き出しを引っ張り出した時、その探しものが見つかったのか、あるものを掴みルイスのもとに戻ってきた。


 彼女の手には水晶が1つ乗っていた。


「これよ。これがバブル期っぽい異世界を保管しているノート。…まぁ、この異世界は今日で滅びるのだけれど。」


「え?今日でこの異世界は終わっちゃうんですか?」


「そうよ。異世界の寿命。この異世界は今日の夜に滅ぶ。だから、行くなら今しかないわね。」


「そうなんですか…でも、行ってみたいです!」


「そう。なら、支度しましょう。」


 アイリーンはそういうとまた自分の部屋に向かって歩き出した。しかし、途中で何かを思い出したかのように彼女はルイスの方を振り返った。


「あ、思い出したのだけれど、さっき言ってた氷河期は就職氷河期って時代よ。あなたが言った、マンモスが生きていた氷河期とはまた別よ。恐らく、マンモスは就職氷河期が来る前にとっくに絶滅していたわ。」


「そうなんですか?えっと…あれ?マンモスはいつ絶滅したんでしたっけ?」


「…私も度忘れしてしまったわ。でも、たぶんバブル期の人達がマンモスを食い尽くしたんじゃないかしら?だって、バブル期では『いただきマンモス』って言葉が流行っていたらしいからね。」

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