滅びゆく世界②
その少女は、肩までの長さの金色の髪に、赤い瞳、アイリーンと同じくらいの年齢だが、それより少し幼く見える顔立ちをしていた。服装はピンク色のパーカーに、デニムショートパンツというカジュアルな格好をしていた。
少女の名はラミア。アイリーンの友人である。
アイリーンはそんな彼女に呆れた様子で返事をした。
「別に。…まぁ、そうかもしれないけど、あなたには変わり者と言われたくないわ、ラミア。それより、この前私が勧めた映画はもう見たの?」
「ん?…ああ、あのお前が好きな映画監督が脚本やってる何億年も前の映画だろ?なんて名前だっけ?スピルバーグだっけか?」
「違うわ。エド・ウッドよ。」
「あー、そうそう。確かそんな名前だった。映画のタイトルが…『ジュラシック・パーク』だっけ?」
「違うわ。『死霊の盆踊り』よ。あなた、ほんとに観たの?」
「ああ、観たよ。観たけど滅茶苦茶つまらなかったぞ?なんか、裸の女がずっと踊ってるだけの映画だった。お前、趣味悪いなー!あんなのが面白いと思ってんのか?映画を見過ぎると逆に感性が乏しくなるのか?まぁ、なんにせよ、そのエド・ウッドとかいう奴はスピルバーグを見習った方がいいな!」
「…あなた、スピルバーグしか映画監督知らないの?」
アイリーンはラミアに軽くツッコミを入れてから続けた。
「まぁ、いいわ。私もその映画の内容を面白いものだとは思ってないから。」
「…はぁ?どういうことだよ?」
「つまらないからあなたに勧めたのよ。」
「はあ!?おい!つまらねぇと思ったもんを勧めてくんじゃねぇよ!」
「内容自体はつまらないけれど、その映画ができる過程や、エド・ウッドの人生自体はとても趣深いものがあるのよ。あなたにはそれが汲み取れなかったようね。」
「知らねーよ、そんなの!人に勧めるなら内容が面白いもんを持って来い!つまんねーと思ったもんを人に観せんな!」
ラミアはプンプンと怒りの表情を浮かべながら、アイリーンの胸ぐらを掴み前後にゆさゆさと揺らした。
かつて、この世界では映画産業を始めとしたサブカル文化が非常に栄えていた。
21世紀の地球では、映画、音楽、アニメ、その他もろもろの娯楽がかつてないほどの盛り上がりをみせていた。
しかし、今の万能な力を得た人間達が暮らす地球では、そのような文化は衰退する一方であった。永遠にも思える長い年月を過ごしてきたことや、魔法という万能な力でほとんどの願いを叶えることができてしまうようになった人間達は、空想の世界へ想いを馳せることがなくなり、それらへの関心や興味を失っていた。
今では、そのような創作物などを作る人間や、嗜む人間達は、ほとんどいなくなってしまった。今の人間にとっての関心事は、いかに安寧に、そして平穏に、今の生活を維持して生きるかということである。
それ故、サブカル文化が大好きなアイリーンは20世紀や21世紀頃の地球の文化を嗜むようになっていった。それは彼女から見れば、何億年以上も前の超古代文化であったが、とても魅力的なものだった。
依然としてアイリーンに怒り続けているラミア。
すると、それを見兼ねたもう一人の女の子がそれの仲裁に入った。
「まぁまぁ、お二人とも。喧嘩はよくないですよ~!そりゃ、昔の人達は争い合う中で急速に文明を発展させてきたわけですけど…それでも、最終的には争いはよくないという結論に至ったはず!…だった気がします!」
その子は得意げな顔でピンと人差し指を立てた。
彼女はエメラルドグリーンの少しボサボサなショートヘアに、水色の瞳、そして穏やかそうだけど、どこかわんぱくそうにも見える顔立ちをしていた。そして、サイドに水色の線が入った白色のベレー帽を頭にかぶり、緑の線が入ったスカートを履き、オレンジ色の短めのポンチョを身に纏っていた。
「私達は別に喧嘩などしていないわよ、トーヤ。ところで、私が来る前は何の話をしていたの?」
アイリーンは胸ぐらを掴んでいるラミアを振り払った後、もう一人の少女、トーヤに問いかけた。
トーヤは苦笑いをしながら答えた。
「ラミアの恋バナです…!」
「あー。ご愁傷様ね、トーヤ。」
アイリーンは横目でラミアのことを見ながらトーヤに言った。
「おい、アイリーン!おめぇ、ウチの恋バナをバカにしてんのか!?」
「いえ、あなたのじゃないわ。恋バナ全体をバカにしているのよ。あんなの話してる側が楽しいだけで、聞いてる側は全く面白くないわ。それこそ、死霊の盆踊りを観ている方がマシよ。」
「あんだとぉ!?ウチのエレガントな恋物語をあんな裸踊り映画と一緒にすんじゃねーよ!」
「エレガント?ただの自慰行為でしょ?話過ぎてテクノブレイクしないように気をつけなさい。」
「言うじゃねぇかよ、アイリーン!じゃあ、さっきトーヤにしてた話をお前にもしてやるよ。こじらせた中坊みたいなこと言うのはその話を聞いてからにしな!」
「はぁ…まぁいいわ。なら、『ローマの休日』並みの話が聞けることを期待しているわ。まぁ、無理でしょうけど。」
「上等だ、コラ!耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
ラミアはアイリーンに向けて恋バナを始めた。
恋バナと言えば朗らかな雰囲気で行うのが一般的なのだろうが、彼女達の場合、話し手が喧嘩を売られたヤンキーみたいな勢いで話し、聞き手が校長先生の話の時のような気怠そうな態度で聞いていたので、その雰囲気とは程遠かった。
トーヤはそんな2人に対して苦笑いを浮かべた後、アイリーンに付いて広場にやって来たルイスに視線を向けた。
「あら?今日はルイス君も一緒なんですね!」
「あっ、はい。姉さんと異世界に出かけて、ついさっき帰ってきたところです。」
「へ~、そうだったんですね!どうでしたか、異世界は?楽しかったですか?」
「えっと…ええ、まぁ…。」
ルイスは言い淀んでトーヤから目を逸らした。トーヤはそんな彼の言動を疑問に思ったが深くは追及しなかった。
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