アカシックノート 〜世界を嫌う少女は異世界を旅する〜

正妻キドリ

滅びゆく世界

滅びゆく世界①

 ここは、かつて日本という国があった場所。


 我々が生きている2023年から、何万…何億…いや、どれほどの時間が経過したかもわからなくなるほどの長い歳月が経った時代。


 2023年頃の日本の風景と言えば、背の高い建物が点在し、その合間を縫うように人や車なんかが行き交うような、そんな画が浮かんでくるだろう。


 しかし、今ではそんな風景がまるでフィクションだったかのように、見る影もなくなってしまった。


 今のこの世界はというと、背の低い木造建築の建物がまばらに建てられ、自動車の存在は消え失せ、人の行き来もあまりないとても簡素なものになっていた。


 2023年の世界の風景を近代というなら、今のこの世界にはファンタジーという言葉がとても似合う。


 かつて、街中にはあまり存在していなかった自然が、今のこの世界では至る所に自生している。それらは魔法の世界に見られるような植物達で、とても神秘的で、街を幻想的なものに仕立て上げている。


 人々は、昔は使えなかった魔法という力を、今では当たり前のように使っている。街中で魔法を使っている光景に出くわしても何も特別なことではない。今やそれが普通なのだ。


 今のこの世界は、かつての人々が思い描いていたファンタジーな世界そのものである。


 そんな世界に住む少女が一人。


 名前はアイリーンという。


 長くて黒い髪に、紫色の綺麗な瞳、大人びているがどこか幼いような顔立ちで、とても奥ゆかしい雰囲気を身に纏っている。そして服装は、紫色のシルクハットを頭にかぶり、右手には細長いステッキを持ち、タキシードの上に紫色のマントを纏い、首元に赤い蝶ネクタイというマジシャンのような恰好をしている、なんとも不思議な少女である。


 彼女は10代半ばくらいの見た目なのだが、その齢は10万を軽く超えている。


 今のこの世界では、人々の寿命は恐ろしいほどに伸びていた。何十万という年齢が当たり前となった世界では、彼女はまだまだ若者である。


 先程、出先から帰ってきたアイリーンは、弟のルイスを連れて家の近くにある広場へと赴いた。


「姉さん、広場へ何をしに行くんですか?」


 ルイスが前を歩くアイリーンに尋ねた。


「人に呼び出されたのよ。…あまり乗り気ではないけど会いに行かなければならないわ。」


 アイリーンはそう答えた。


 彼女の言葉通り、あまり乗り気ではないことがその少し暗い口調と面倒くさそうな態度から伺えた。


 やがて、2人は広場に着いた。適度に花とみどりに溢れていて、真ん中に大きな噴水があるとても綺麗で大きな広場だ。しかし、そのような魅力的な景色の割にそこを訪れている人はあまりいなかった。


 アイリーンはその広場に着くなり辺りを見回した。すると、遠くの方でポツンと、白色のガーデンテーブルとチェアを並べ、ティーカップに入った紅茶を啜りながら談笑している2人の女の子を見つけた。


 彼女は重い足取りでその2人に近づいて行った。


 やがて、その2人組は、自分達に近づいてくるアイリーンとルイスに気づいた。


 1人がニヤニヤした表情でアイリーンに話しかけてきた。


「よお、アイリーン。遅かったな~。お前、また異世界に行ってたのか?相変わらずの変人っぷりだな~!」

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