浮かれた世界⑥
「お2人はこの街の方々ですか?」
と、ここで店員がアイリーンとルイスに対して問いかけた。
「えっ…?」
少し急な問いかけだったのでルイスは戸惑った。その様子を見た店員は慌てて言葉を続けた。
「す、すいません!急に質問してしまって…。」
「い、いえ!全然大丈夫ですよ!…ぼ、僕達は旅の途中でして…今日、初めてこの街を訪れて、それで…」
「そうだったんですね!どこから旅されてるんですか?」
「えっ…えっと〜…。」
店員の追求にルイスは困ってしまった。彼はこの世界のことを全く知らない。だから、適当な嘘を吐こうにも街の名前が一つも思い浮かばない。
ルイスはテンパっていた。そんな彼を見兼ねたアイリーンは、代わりに自分が店員の質問に答えることにした。
「異世界よ。別の世界から来たエイリアンなのよ、私達。」
「えっ…!?」
すまし顔でそう言ったアイリーンにルイスは驚きを隠せなかった。初対面の相手にそんなことを言ったら、頭のおかしな奴だと思われて引かれるに違いない。そう思ったからである。
しかし、ルイスの予想に反して、アイリーンの言葉を聞いた店員はニヤッと笑って、嬉しそうにしていた。
「へ〜!じゃあ、ここに来たのはこの世界を侵略するため…とか?」
「ええ。暇だからこの世界を滅ぼそうと思ってね。」
「退屈凌ぎにそんなことされたら困るんですけど!」
「長年生きてると規模の小さいことでは楽しめなくなるのよ。」
「長年?今何歳なんですか?」
「15歳よ。」
「あ、そこは普通に答えるんだ。」
「冗談はくどすぎるとつまらなくなるからね。」
「私、17歳ですよ。お客さん、私より年下だったんですね!大人びてるから全然そう見えなかったですよ!」
「あら、そうだったのね。私もあなたが年上だとは思わなかったわ。なんででしょうね?」
「あ〜!それ私が子供っぽいってことですか!?」
店員はムッと怒ってアイリーンをジト目で睨んでみせた。そして、その後彼女との距離を縮めるようにニコッと明るく笑って見せた。アイリーンも彼女に歩み寄るかのようにそれに微笑み返した。
「あなた、名前はなんていうの?」
「私、ネリネって言います。お2人は?」
「私はアイリーン。こっちは弟のルイスよ。」
その店員こと、ネリネに問われたアイリーンは、自分とルイスを順番に指差した。
ルイスは、アイリーンとネリネのやり取りを呆然として聞いていたが、指を差されてハッとして、慌ててネリネに笑顔で「よろしくお願いします!」と言った。
「ねぇ?よかったら、この街について色々と教えて欲しいのだけれど…駄目かしら?」
アイリーンにそう問われたネリネは、困惑しながら言った。
「えっ…!え、えっと〜…。教えてあげたいのはやまやまなんですけど、今仕事中ですし…。」
ネリネはそう言いながら、カウンターの方をゆっくりと見た。
カウンターの傍では、相変わらずマスターが自分の顔を隠すかのように、新聞を大きく広げて、それを物静かに読んでいた。
マスターは、ネリネに視線を向けられてから少しして、新聞から片手を離し、小指を一本だけ立てたハンドサインを送った。
それを見たネリネは嬉しそうな顔をして、アイリーン達に向き直った。
「マスターがいいって言ってくださいました!私も座っていいですか?」
それに対してアイリーンが答えた。
「ええ、もちろん。そもそもあなたの店だしね。それと敬語もなしでいいわよ。」
ルイスが自分の隣の席を引いて言った。
「どうぞ!」
「ありがと、ルイス君!」
「ところで、さっきの小指のハンドサインはどういう意味なの?」
「え?ああ、普通に『いいよ』って意味だけど…アイリーン、知らないの?…あ!アイリーンは異世界から来たんだったね!じゃあ、知らないのも無理ない…って設定かな?」
「ええ、まあ、そんなとこよ。…因みに私達の世界だと、あのハンドサインは『嘘吐いたら、無数の針が付いた魚を丸呑みさせるぞ?』って脅しを意味するわ。」
それを聞いたネリネは笑いながらアイリーンに言った。
「あはは!なにそれ~?アイリーンは嘘が下手だね!その魚、アイリーンが飲むことになるよ?」
「嘘じゃないわ。私、嘘は吐かない主義なのよ。…面白い嘘以外は、ね。」
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