滅びゆく世界④
「アイリーンッ!!!」
いきなり後ろから大声が聞こえてきたので、ルイスはびっくりして話を中断してしまった。
アイリーンはラミアの恋バナを聞いていたが、その強い口調の大声に反応してそちらを向いた。
声の主は、アイリーン達と同じくらいの年齢の少女であった。
その少女は、ブルーベリー色の長い髪、淡い水色の瞳、浅黒い肌で幼い顔立ちをしていた。服装は、白色のシャツの上に淡い水色のカーディガンを羽織り、それと同じ水色のスカートを履き、足には白色のロングソックス、丸い眼鏡を掛けていて、そして頭には大きな可愛らしいリボンがチョンとのっていた。
その少女は眉をひそめながら、アイリーンのことを指差した。その子はアイリーンに対して怒りを覚えているようだった。
「あなた、また異世界に行っていたのね!?」
「…そうだけど。だったら、何?文句でもあるの、ミカエラ?」
アイリーンはその少女こと、ミカエラに語気を強めて言った。ミカエラはそんなアイリーンに引けを取らない語気の強さで返した。
「あるわよっ!異世界にはもう行くなって前に言ったでしょ!あなたのせいでこの世界の秩序が乱れるかもしれないのよ?放っておくわけにはいかないわ!」
ミカエラはそう言ってアイリーンを睨んだ。すると今度は、文句を言われているアイリーンではなく、その傍らにいたラミアがミカエラに言い返した。
「おうおう、ミカエラ!またおめぇ、ウチのダチがやることにケチつけようってのか?確かに、こいつは裸踊り映画が好きな変人だ。だけど、こいつの行動を規制する権利なんてお前にはないはずだろ?」
「…別にその映画を好きとは言ってないわ。フェイクニュースみたいなことはやめなさい。」
冷静にツッコミを入れるアイリーンを無視して、ラミアはミカエラを睨みつけた。すると、ミカエラも若干気圧されてはいたがすぐにラミアを睨み返した。
「えっと…」
突然の乱入者にルイスは困惑していた。
いきなり、自分の姉が怒鳴りつけられたのだから無理もない。
ルイスはミカエラに注意を向けながら、すぐ近くにいるトーヤに質問をした。
「トーヤさん、あの人は…?」
「えっ?…ああ!あの方はミカエラです…!頻繁に異世界へと出向くアイリーンのことが気に入らないのか、たまにああやって突っかかってくるんです…!」
「なるほど…。でも、それは少しひどい気がします。異世界を旅しようが、何をしようが姉さんの勝手じゃないですか…?」
「ええ、そうですね。私もアイリーンの勝手だと思います。…でも残念ながら、彼女が異世界に行くことを快く思っていない人達は多くいるようでして…。」
トーヤはそう言うとルイスを促すように遠くの方へと視線を向けた。彼女につられて、ルイスも同じところに目をやった。
少し遠く離れたところには、他にもアイリーンと同年代くらいのグループがいた。その少女達は4人組で、その全員がミカエラとアイリーン達の言い争いを冷ややかな目で見ていた。
言い争う声がうるさくて、それを疎ましく思っているというのももちろんあるのだろうが、彼女達がアイリーンにそのような態度をとるのには他にも理由があった。
この世界の人間達は、異世界や昔の文明を激しく嫌っている。それは万能な力を得た今の人間にはそれらの文明は不要なもので、寧ろそれらが今の世界に持ち込まれることによって、今の世界の文明が崩れてしまうことを恐れているからである。
それ故、異世界や昔の文化を好むアイリーンのような人間は、この世界に不安定因子を持ち込む者として冷ややかな目で見られることが多いのである。
遠巻きの4人組から冷ややかな視線を向けられていることは、アイリーン自身も既に気づいていた。しかし、そんなことには慣れっこなのか、相変わらず彼女は無表情のままであった。
「あなたになんて言われようが、異世界に行くことをやめたりしないわ。私はイエスマンじゃないのよ、ミカエラ。」
アイリーンはそう言ってミカエラに背を向けた。それは、もうこれ以上話をするつもりはないという彼女の意志を表していた。
すると、ミカエラは少し悔しそうな表情で言った。
「損をするのはあなたなのよ、アイリーン!それに、あなたのお母さんだって…。」
ミカエラは途中で言葉を詰まらせた。
しかし、それはアイリーンを反応させるには充分だった。彼女は動きをピタリと止めた。その時もアイリーンは無表情であったが、動きを止めたことから少し動揺していることがわかった。
「おい!おめぇよ…!」
ラミアは少し怒りの混じった呆れ顔でミカエラに言った。ミカエラもあまりよろしくない発言をしたことを自覚しているようで、少し申し訳なさそうにしていた。
「アイリーン…。」
心配そうにトーヤがアイリーンに話しかけてきた。しかし、アイリーンはそんなトーヤを余所に、振り向いてミカエラを横目で見ながら言った。
「不毛ね。悪いけど今日は帰らせてもらうわ。ここにいてもあまり生産的ではない気がするし。行きましょう、ルイス君。」
アイリーンはそう言うと他の三人に背を向けて、彼女が来た道を歩いて戻り出した。
「えっ…!ま、待ってください!姉さん!」
ルイスは慌ててアイリーンの後を追いかけた。
ラミアとトーヤは、アイリーンのことを呼び止めたかったが、なんと言えばいいのかがわからず、結局彼女が広場を去るまで口を噤んだままだった。
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