浮かれた世界②
------アイリーンとルイスが異世界に出かける前の時刻まで遡る------
アイリーンは自室のベッドで静かに寝息を立てていた。
広さ二十畳くらいの部屋に、小奇麗に木造りの家具がきっちりと並べてある。そして、それを台無しにするかのように部屋のあちこちにものが散らかっている。
漫画、CD、ブルーレイディスク、ぬいぐるみ、フィギュア、ポスター、タブレット端末などなど。部屋に乱雑に置かれたそれらは、彼女が21世紀の人間達が何をして過ごしていたかをこの部屋の中で研究するための材料である。
そんな、強盗に遭った後のアニメイトみたいな部屋に午後の陽光が差し込んでくる頃、部屋の中にルイスの大声が響いた。
「姉さん!いつまで寝てるんですか〜!?」
ルイスは、アイリーンの部屋に入ってきて大声で言った。
「…ん…うぅ。」
その声で目が覚めたアイリーンは、ベッドから起き上がり、少々乱れた黒くて長い髪をかき上げながら、とても不機嫌な表情を浮かべた。
「…何よ?朝から騒がしいわね、ルイス君。あんまりうるさくしてると、かめはめ波でこの街ごと吹っ飛ばすわよ?」
「すいません…。いや、でも!姉さんがいくら呼んでも起きないから、こうやって大声を出さざる負えなくなってるんですよ?しかも、もう昼だし…。姉さん、昨日の約束覚えてますか?」
「…約束?」
アイリーンは眠そうな目で首を傾げた。その様子を見たルイスは信じられないと言いたげな表情で彼女に迫った。
「えっ…まさか忘れてたんですか!?姉さん、昨日言いましたよね!?『この街に、数千年ぶりに喫茶店ができたから、明日の朝、一緒にモーニングを食べに行きましょう。』って!」
「…ああ。」
「『ああ』じゃないですよ!?折角、早起きして準備してたのに、姉さんが全く起きてこなかったから間に合わなくなったじゃないですか!」
ルイスはプンプンと怒り出した。
アイリーンは、なんと言い訳すればこの場をやり過ごせるかがわからずにいた。自分から約束を持ちかけたにも関わらず、昼前まで寝過ごしてしまったのだ。何を言っても許される気がしなかった。
色々と考えた末、彼女は開き直ることにした。
「ルイス君。あなた、私がその約束を守れると本気で思ったの?死ぬほど朝が弱い私が、モーニングがやっている時間内に起床できると本気で思ったわけ?…できるわけないじゃない。そんなの天地がひっくり返ってもありえっこないわ。」
「なっ…!?」
ルイスはアイリーンの発言に愕然とした。そして、当然のことながら、彼は怒りのボルテージを上げた。
「それなら、なんで約束したんですか!?できないなら最初から約束しないでくださいよ!」
ルイスの声は家中に響き渡った。
アイリーンは彼が大声で叱ってくるのを予測していたかのように、小指で両方の耳をすぐさま塞いだ。そして、彼に背を向けてベッドからぴょんと降りると、部屋の出口に向かって歩き出した。
そんなアイリーンの背中をルイスは慌てて追った。
「待ってください、姉さん!話はまだ終わってないですよ!?」
「私的にはもう終わってるわ。大体、あなたは真面目過ぎよ、ルイス君。もう少し肩の力を抜いたらどうなの?太古の昔には、バブル期っていう超絶不真面目な時代があってね。それはそれは多くの人間が浮かれていたらしいわよ。あなたはその人達を見習った方がいいわね。」
アイリーンは後ろにいるルイスに言った。そしてその後、洗面所に入って行き、蛇口から水を出して、両手で顔をパシャパシャと洗いだした。
ルイスはアイリーンの言葉に反論しようとしたが、彼女の口から出た『バブル』という単語が気になった。
「…バブル期?何ですか、それ?」
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