2-7 エピローグ壱

 冷たい雰囲気が漂う一室――その窓から茜色に燃えている夕焼けが見える。

 それに照らされたアンさんは、黒い高級感溢れる椅子に座っていた。


「お疲れ様、荒井ちゃん、零ちゃん」

 ここは駆除師本局のアンさんの部屋。

 この私、荒井は零さんと共に仕事を顛末を報告しにきたのだ。


「凄いね、蠅人間二人に『ドゥルジ・シリーズ』が一人。超優秀だよ」

 パン、パン、パン、アンさんは手を叩いた。

 どうやら、私たちを讃える拍手らしい。


「ふざけるな」そんなアンさんに零さんが噛みついた。

「私に新人をつけるなら、事前に言え。それに、新人には事前情報はしかっかり伝えろ」

「はいはい。まぁ、結果オーライってことで」

 やってられん……。零は右を向いて、部屋から出ていってしまった。


「あぁ、もう零ちゃんったら。訊きたいことがあったんだけど後ででいっか……」

 アンさんは腰を上げると、私へ歩み寄ってきた。


「で、どうだった。やっていけそうかな?」

 アンさんの質問に、私は頷く。


「はい、必ずや『混沌の蠅人間』を殺します」

「心強いね」

 アンさんの手が、私の肩を叩く。


「あ、そう言えば、荒井ちゃんに朗報があるんだ」

「朗報……?」

 アンさんはにやけて……。


 * * *


 駆除師本局附属病院。

 マナー違反だが、私は廊下を駆け抜けていた。

 やがて、金属製の扉を一枚、二枚と開けてある部屋へと入った。


 壁一面が機械で埋め尽くされた部屋。

 中心にあるベッドの上では――


「荒井さん……?」

 レンちゃんが上体を起こしていた。

 アンさんの言った通り、レンちゃんは意識を取り戻したみたいだ。


「れ、レンちゃん!」

 私は声を上げて、レンちゃんに近づいた。


「ごめんなさい、荒井さん。わたくし、あの後、貧血で倒れちゃったみたいで」

 レンちゃん本人は、一度殺されたことも、呪われていることも、私が蠅人間であることも、覚えていないらしい。


『貧血で倒れた』というのは、アンさんが言った方便だ。

「ううん、レンちゃんが無事でよかった……」

「荒井さん……泣いていますよ?」


 レンちゃんに言われて、自分が泣いていることに気がついた。

 人差し指で涙を拭う。

 やれやれ、私は泣いてばかりだ。


「そんなに、心配してくれて……ありがとうございます」

 そう言ってくれるレンちゃんの顔。

 整った綺麗な顔――それを見て改めて決心する。

 絶対に彼女を救おうと。

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THE FLIES ~蠅人間たち~ セクシー・サキュバス @Succubus4443

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