2-3 Moonlight Love Game No.1

「おい、おまえ」

 次なる仕事場に向かう為、私は零さんが運転する車に乗っていた

 零さんが私に話しかけたのは丁度、車が首都の中心部に入った時だった。


「さっきから私の顔色をチラチラ見るのやめろ。気になる」

「そんなことないですよ……」


 実はそんなことあった。

 零さんが、私のことを気持ち悪いオカマだと思っているのか。

 だから、零さんは機嫌悪いのか。

 そのこと気になっていた。


 別に今日会ったばかりの零さんに好かれたい訳じゃあない。

 ただ、どうしても、今は亡きイジメッ子の顔が脳を過ってしまうのだ。


「そんなことあるから言ってんだろう」

 零さんは容赦なく追及する。


「……」

 黙る私に対して、零さんは「話したくないなら、いい」と切り上げた。


「……話を変えるが、おまえが『混沌の蠅人間』を狙う理由って、英沢セイレン関連か?」

 唐突にレンちゃんの名前が出てきて、背筋がキュッと伸びる。


「はい」私は隠す理由も無いので正直に答えた。

「レンちゃんは唯一の友達だったんです。だから助けたいと思って……」


「……」

 目前の信号が赤だったので、車はゆっくり止まった。


「それ程大切なんだな。おまえにとって英沢セイレンは」

「まぁ、そうですね……」


「……私の目的も『混沌の蠅人間』を殺すことだ」

 零さんの声は妙に落ち着いていた。

「最もそれは、仕事で依頼されたからだがな」


 おい、さっき私のことを――『混沌の蠅人間』を殺したいって言うぐらいの馬鹿――だと言っていただろう。貴女もその馬鹿の一人じゃあないか。

 勿論、そんなこと口に出せる訳がないので、「そうなんですかぁ」と無難に返しといた。


「駆除師本局直々の依頼でな『混沌の蠅人間』を殺せば、一生遊んで暮らせる金が振り込まれることになっている」

「はぇ……そんな金が……」


「あぁ。きっと私の人脈が狙いなんだろうけど」

 言った後、零さんは『しまった……』っていう顔をした。

「人脈……?」

「……口が滑った。忘れてくれ」


 信号が青へと変わり、車が進む。


 ふと思ったんだが、これって私にも金は入るんかな。

 いや決して私は金目当てで『混沌の蠅人間』を殺したい訳じゃあないが……。

 隣に一生遊んで暮らせる金が振り込まれる人がいるもんだからねぇ。


「おまえが分からない」零さんが突然、呟く。

「……大金積まれている訳じゃあ無いのに、どうして、たかが友達をそこまで大切にできる?」


「……そうですね」私は座席に背を預け、ゆっくりと上を仰ぐ。

「私には大切な家族はいませんし――恋人もいません――ただ、私にはレンちゃんしかいないんですよ。仲良くしてくれたのも、誕生日を祝ってくれたのも……全部、レンちゃんだけなんです」


 ――だから。


「どれだけ、金があっても意味がないんです。レンちゃんがいなければ意味がないんです」


「……」

 しばらく、沈黙が流れた。


 ただの沈黙より、重く苦々しい沈黙だった。

 何だか不安になった私はじっと零さんの顔を窺っていた。


 やがて、零さんが口を開く。

「……次の仕事は『混沌の蠅人間』に直接的に関わるかもしれない」


『混沌の蠅人間』に――関わる仕事。

 急に話を変えられたのは置いといて、仕事内容はかなり気になった。


「次の相手は『ドゥルジ・シリーズ』の可能性がある」

「ど、『ドゥルジ・シリーズ』……?」


 聞き慣れない言葉に私は小首を傾げる。


「はぁ?」訝しむように零さんは私を睨んだ。

「おまえ、もしかして、知らないのか?」


「は、はい……」


 はぁ……。零さんは大きく嘆息した。

 フロントガラスが曇りそうなぐらいの息だったと思う。


「アンの奴、何もおしえてないのかよ……」

「その『ドゥルジ・シリーズ』ってなんですか……」

「……それはな」

 零さんは渋々って感じで、説明を始めたのだった。

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