0-2 駆除 No.2

 事の起こりは一週間前。

 裏山で、ある村人の男が行方不明になった。

 捜索の結果、彼は変わり果てた姿で見つかった。


 体中が引き千切られ、最早、人とは形容できない物になっていたらしい。

 村は熊の仕業だと断定して、何もしなかった。


 それが大きな間違いになるとも知らずに。


 事態が急転したのは昨日。

 正午頃、裏山から蠅人間が現れ、多くの村人を惨殺していったのだ。

 殺し方は一週間前の男と全く同じ、体中を引き千切り、肉片にする。

 ある程度殺し終えると、蠅人間は森へと帰っていった。


 残された村人達は恐怖に駆られ、死体をそのままに家の中に閉じこもった。

 外にいれば、蠅人間に殺されるかもしれないからだ。


「それで、やっとの思いで私が本局に駆除依頼を出した訳です」

「蠅人間の元となった人間に心当たりは……?」

 私は気になったことを訊く。

「あ、ありません。なんで私たちは誰かに恨まれるようなことなどしていません……」


 恨まれるようなことか……。

 その後、一通り話を聞いて村長の家を後にした。


 * * *


 私は件の裏山の入り口へと足を運んでいた。

 村の被害が増えない内に、駆除しておく算段だ。

 鬱蒼と木が茂り、道とは言い難い獣道が山へと伸びている。

 まだ昼間だというのに、そこには闇が広がっている。


 それを覗くように、少女が立っていた。

 その身に纏う制服からして、首都の女子高生のようだ。

 どうしてここに、首都の学生が……。


 まぁ、いい。


「お父さん……」そう呟く少女の肩をポンと叩く。

「わぁぁぁ!」

 素っ頓狂な声を上げ、少女は振り向いた。


「おまえ、ここで何をしてる? 危ないから帰れ」

「あなたこそ、ここで何を……?」

 少女は訝し気に訊いてくる。


「私は駆除師本局からきた駆除師だ」

「駆除師さんですか……」

 少女はキッと私を睨むと、何の脈絡もなく走り出した。

 その足は山の道へ向っている。


「帰れと言っているだろう」少女の腕を掴む。

「離してくださいっ!」

「なんで自分から死ににいく真似をする?」


 そう訊くと、少女は力が抜けたように俯いた。

「私は……お父さんの仇をとりたくて……」

「仇……?」


 少女曰く、少女の親父は一週間前に行方不明なった男――最初の被害者だったらしい。

 そのことを聞き、居ても立っても居られなくなり、半ば強引に首都から里帰りをしたみたいだ。


「お父さんは、私が首都の高校にいくのを全力で後押してくれた……! そんなお父さんを殺した蠅人間を私は……」

 ポタッ、ポタッ。

 少女から雫が落ちて――地面に衝突し、パァンと弾けた。

 その度に涙の量は増えていき、気がついたら雨のように土を濡らしている。


「とんだファザコンだ」と私はぼやいて。

「おまえの気持ちは痛い程わかる。でもな、おまえが死んじまったら親父も悲しむだろ。ここは私に任せろ。必ず親父の仇はとってやるから」


 少女は黙ったまま、頷いた。

 明らかに納得していない感じだが、まぁいいだろう。


「じゃあ、家に帰ろよ」

 そう少女に告げて、山道に踏み込んでいく。

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