1-2 Break-G No.2

 今から十年前――


 小学二年生の私は公園の隅でうずくまっていた。

 スカートを履いていたことで、同級生からイジメられたのだ。

 泣きながら、ジーッと地面ばかりを眺めていた。


 そこに。


「大丈夫ですか?」


 誰かが――話しかけてきた。

 顔を上げると、そこには瑠璃色の髪の女の子が立っていた。

 よく見ると、私とお揃いの花柄のスカートを履いている。


「誰……?」私は目の前の女の子を怪しんだ。


 その子も私をイジメにきたと思ったからだ。

「わたくしは英沢セイレンと申します。あなたは?」

「私は……荒井◯◯◯……」


「◯◯◯さんって言うんですか」

「名前で呼ばないで……」


「なんでですか? いい名前ですよ」

「私、もっと可愛い名前がよかった……」


「そうですか」

 セイレンと名乗った女の子は視線を下げる。

 どうやら、私のスカートを見ているみたいだ。


「……何? あなたも私を」馬鹿にするの?

 と言いかけたところ。


「隣いいですか?」と女の子は私の隣に座った。


「どうして……?」

 突然のことで私はキョトンとする。


「一人でいるより、誰かと一緒にいる方が楽しいですよ」

「そうじゃあなくて、あなた私のことを馬鹿にしないの?」


 そう訊くと、女の子は不思議そうに首を傾けた。

「馬鹿にする? なんでわたくしが荒井さんを馬鹿にしなきゃいけないんですか?」


 ますます私は、目の前の女の子のことがわからなくなった。

「じゃあ、なんで私にかまうの?」

「さっきも言ったじゃあないですか。『一人でいるより、誰かと一緒にいる方が楽しい』って」


「私、わからないよ。あなたのこと……」


 私の困惑を他所に、女の子は話を続けた。

「わたくし、友達いないのですよ。皆、わたくしのことをお嬢様ってからかうだけで……」


 友達がいない……。

 それは私もだ。

 皆、オカマだとか、気持ち悪いとか言って、私を遠ざけた。


「それでですね、荒井さん……」

 少女は意味ありげに顔を上げた後、私の方を向いた。


「わたくしと友達になっていただけませんか?」


 さらに、どんどん、疑問が深まっていく。

 なんで、なんで、なんで……。

「なんで、私と……友達になりたいの……?」


「それは……」少し間をあけて女の子は言った。


「荒井さん、私と同じスカートを履いているので気があいそうですし、それに……」

「それに、何?」


「女の子の友達が欲しかったので」


 余りにも思いがけない言葉が飛んできたので、私は茫然としてしまう。

 少し間を開けて、思わず笑いを漏らしてしまった。

 今まで感じたことのない暖かいものが心に充満して、私を笑わせたのだった。


「何がおかしいのですか?」と頬を膨らませる女の子に対して、何か不思議な気持ちを抱いてしまう。

 ――これが『友達』と言うのかな。

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