0-6 エピローグ零
西空に浮かぶ太陽は、眩むような灼熱でその身を焦がしていた。
そこから放たれる血に近い朱色の煌めきはただでさえ赤い村を静かに染め上げている。
仕事が終わり、帰路についた私。
村の外れにある愛用の軽自動車のドアを開き、乗り込もうとする。
「待って!」
声が聞こえ、手を止める。
少女がこっちへ駆けてきた。
「私の父を救ってくださりありがとうございます……。父も浮かばれていると思います……」
「気にするな。私は仕事をしただけだ」
「でも……」少女は後ろめたそうに視線を横に流した。
「私と父のために、あなたは村長を……」
「それも気にするな」
斎藤の死体は丁度いいサイズに切り分けて荷物の中に入れといた。
駆除師本局へいけば、いい感じに処分してくれるはずだ。
「ところで、おまえはこれからどうするんだ?」
「私は……首都に戻ろうと思います。ここにいても、もうお父さんはいないので」
「そうか。じゃあ達者でな」
* * *
軽自動車は、S県の高速道を走っていく。
もう太陽は完全に沈み、夜だけが空を独占していた。
今頃、本局の清掃班があの村の後処理をしていることだろう。
ぶるる……とズボンのポケットが震えた。
中の携帯のバイブだった。
ここで出るのは流石に不味い。
車をサービスエリアに入れ、停車させた。
携帯の画面に映る名前は私の苦手な奴のものだった。
少し逡巡した後に電話を取る。
「もしもし……アンか?」
「……零(リン)ちゃん」
電話先の奴――アンはいきなり、私の名前を呼んできた。
普通、この国では『もしもし』からじゃあないのか。
「なんだ? おまえが電話かけてくるなんて珍しいじゃあないか」
「ちょっとね、頼みたい仕事があるの」
「頼みたいこと?」
蠅人間の駆除かなんかか?
けど、アンの力は私などと比べ物にならない。
アンは一人で蠅人間――百人は殺せる。
私に頼むぐらいなら、自分から動きそうなのだが。
そう訊いてみたが「そうだよ」と普通に肯定されてしまった。
「実はね、面白い蠅人間がいてね。零ちゃんにはその人間を駆除して欲しい」
「何故わざわざ、私に頼む? 私にいくより、おまえがいった方が早く済むだろう」
うん。落ち着いたようにアンは頷く。
「けどね、今回の件はあたし一人じゃあ無理かなぁ」
アン、一人じゃあ無理……?
「おい、それって……」
「そうご察しの通り、ターゲットは蠅人間の『帝王』――『混沌の蠅人間』だ」
混沌の……蠅人間……。
私は思わず携帯を落としそうになった。
「
それは紛れもない、私の本心だった。
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