第4話
「きた! カカオを植える時!」
ルナは飛び跳ねながら、転移魔法の魔法陣を用意する。布に刺繍されたそれは、ルナの部屋で広げて魔力を込めれば、一瞬で王子の離宮に行くことができるのだ。
ルナは先日、ついに約束の菜園と“南方の実”の苗を手に入れたのだ。
「ルナ、この苗からでは、すぐに実が取れないんだそうだ。数年かけて大きな木に育ててから、やっと実が取れるんだそうだが……」
王子が上目遣いでルナに問いかける。
「わぁ! ありがとう! 待ってたよーカカオちゃん!」
ルナは苗を抱きしめる。王子はそんなルナの様子を見て、ふぅっと息を吐いた。
「よかった。すぐに実が取れないなら、約束はなしって言われるかと思った……」
「ん? なんか言った?」
王子の独り言はルナの耳には届かなかったようだ。
◇◇◇
「菜園ちゃん、久しぶりー!」
つい先日植えたばかりのハーブたちは、生き生きと育ち、誰があげたともなく水滴が輝いている。菜園内では、繁殖力の強いハーブはしっかりと隔離されて、丁寧に管理されている。
「うーん、カカオはこの辺りかな?」
ルナに与えられた離宮の庭という名の菜園は、広大だ。元々は砂地だったはずの菜園は、使う部分はなぜか土に変わっている。樹木なら5000本は余裕で植えられるくらいの広さだ。
切り開かれたばかりのハーブ畑の隣に、ルナはカカオの苗を植える。砂地だった部分はすぐに土に変わっていき、ルナが手をかざすと、カカオの苗は力強く根を張った。
「ルナ!? お前、どうやったんだ、それ」
「ん? なにが?」
ルナが収穫したカカオの実を抱き抱えながら振り返ると、王子は頭を抱えていた。
「ルナが別ルートでカカオを手に入れたと思われるには、今の政治状況では……。ルナは外にこの実を見せずにいてくれるのか……」
王子がぶつぶつと悩んでる中、ルナはカカオの実を抱きしめ、大木となったカカオの木と喜びを分かち合っていた。
「カカオちゃん、あなたすごいわ! こんな立派な実をたくさんつけて! またよろしくね?」
「る、ルナ……その実はどうするつもりだ?」
意を決した王子がルナに問いかけた。
「うーん、半分は保管して、いくつかは薬として使えないか実験して、残りは育てる!」
「ほ、保管はどちらに……? というか薬は媚薬……?」
「保管は私にしかわからない場所よ? 媚薬なんか作っても使い道ないじゃない。国王陛下の解毒後の回復のための薬に使うのよ」
「へ? 父上の?」
「ええ。だってまだお元気でいてもらわないと困るじゃない? あ、薬の送り主は平民の娘でもどこかのご令嬢でも適当にユウェンの好みの娘にでもしておいたらいいわ。きっと結婚の後押しになるわよ」
「適当にって……」
王子に好みの娘がいたら、ルナが絶賛正妃候補筆頭になっているはずはない……多分。今までの国家への貢献度や身分からすると他の追随を許さないレベルの筆頭候補だが……。
「ユウェンの好みってどんな娘なの? あれだったら、私が探してきてあげるわよ?」
「好み……ね。人を好きになったことがあまりないんだよな」
「あまり……? え、私?」
本気で嫌そうな顔をしたルナに、王子は言い返す。
「見た目だけな! むしろお前のその残念っぷりを見て、女性への夢も希望も失ったんだ!」
「……責任は取らないわよ? 勝手に期待して幻滅したんだもの」
ルナのような美少女を見て、期待しないことは難しい。だが、勝手に期待され幻滅され続けてきたルナにとっては、迷惑な話だ。
「……待って、もしかして、私のせいで男色に?」
「ちゃうわ!」
素早くキレのあるツッコミを王子が返したところで、不毛な会話は終わったようだ。
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