第15話
「ルナ様、ご報告できることがまとまりました」
ルナの諜報部隊スカイの言葉に、ルナは息を呑む。
「スカイ、何がわかったの?」
「はい。ステラが発見し、伝言が届いたため、ご報告いたします。元伯爵領にて、国王の暗殺計画についての証拠を発見いたしました。それによると、ウェストゥンの貴族からの関わりが判明しております。ただ、詳細については、現在、ステラが継続して調査中でございます」
「そう。ありがとう。こちらの国の貴族は誰が関わっているか、わかってる?」
「はい、そちらについては、」
スカイの報告を一緒に聞いていた王子は、ぶつぶつとつぶやく。
「なぜ、元伯爵領からここまで、伝達がこんなに早くできるんだ? どんな技術を使っているんだ? 聖女だからか? 元伯爵領から魔法を使って連絡する手段は、阻害魔法を使って封じてあるはずだぞ?」
「僭越ながら、王子。ルナ様の行うことについては、全て、理解の範疇を超えるものかと」
王子の乳兄弟である侍従が王子に対してそう相槌を打った。
「ねぇ、ユウェン」
「ルナ、なんだ?」
「私、行きたいところがあるんだけど」
「もしかして、国王暗殺の件に関わるところか? ただ、ルナが離れると、父上に何かあったら……」
「デトックスハーブティーのティーバッグを置いていくわ。その件とは、全く関係ないわ。私が行きたいところよ。国王暗殺の調査については、私のスカイたちを貸してあげてるじゃない?」
「ですよね……。というか、借りてるというか情報提供を受けているだけで、管轄権はこちらにきてないぞ!?」
「かわいいスカイたちが、あんたなんかのいうことを聞くことないじゃない」
「ルナ様……!」
ルナの言葉のどこに感動したのか、スカイが感極まったまま跪いている。その様子に少し引きながら、王子は問いかける。
「ところで、どこに何をしにいくのだ?」
「うーんと、トローペン辺境伯領へ、市場調査?」
「買い物だろ! それ! 国の一大事より大切なのか?」
「大切よ! 私が必要なものを私が取りに行くのよ?」
「王子妃候補の外出は、原則禁じられていて、付き添いには王子の帯同が必要だが?」
「何? ついて来れないっていうの?」
「ついて行かせていただきます……」
「まぁ、あの毒草は辺境伯領を通らないと国内からは入手できないわ。国からの監視の目を誤魔化して、関わりの少ない国から商品を輸入するには、限界があるもの。きっと国内の輸入経路も使っているわ」
「ルナ……!」
「あ、そうだ。失敗した、ルナ特製の健康ティーバッグ、トローペン辺境伯領に行く途中に、くーばろっと!」
「ルナ、国民をゴミ箱扱いするな……」
ルイス王子からルナを守るためにも、迅速に出立の準備を進めるユウェン王子。できる限り、二人を会わせないように気をつけて過ごしているようだった。
そんな中、ルナに近づきたいルイス王子が、ルナを探してユウェン王子の執務室へとやってきた。
「ユウェン王子、失礼する。今回の訪問のことで尋ねたいことがあるのだが」
ルナを探しにきたことが明白であり、質問の内容はどうでもいいだろう。
失礼と言ってもいいほど、あまりにも突然の訪問に、ユウェン王子の執務室でくつろいでいたルナが、姿勢を整えることは間に合わなかった。
「……そ、そちらの女性は? ルナ嬢に似ているが……その、様子が、」
驚きのあまり言葉が続かなくなったルイス王子を出迎えたルナの服装は、後宮教育のための運動で使った、くそださボロボロジャージ風の服であった。ちなみに、その日に限って、髪型もボサボサ頭のままであった。
また、まるで涅槃仏のような体勢で、ちょうど鼻をほじっているところだったせいだと思おう。ルイス王子の入ってきたあたりに、ちょうどルナの鼻くそがピンっと飛んでいった。
「あら。失礼いたしました、ルイス王子。」
慌てて起き上がり、美しい礼をして出迎えるルナは、服装のギャップと相まって異常だ。
「あ、あ、あ、あ、」
一歩ずつ後ろに後ずさるルイス王子に、ユウェン王子は少し同情する。
「……その、ルナが何かすまないな」
「いや、こちらこそ、突然……失礼する」
脱兎の如く、ルイス王子は逃げ出した。
「……これなら、最初からルナの普段の姿を見せておけば、こんなに悩む必要はなかったかもしれないな」
ユウェン王子の小さな呟きに、そばに控えていた侍従は、うんうんと頷いた。
「王子と王子妃よー!」
「まぁ! 美しいお二人だわ!」
ついに、ルナの希望でトローペン伯爵領は向かう日がやってきた。
ルイス王子は、すでにルナに対して積極的に関わろうとしなくなっていた。そのため、急いで出発する必要はなくなったが、準備が済んでしまったので、予定通りに出発することとなった。
女性像を打ち壊したルナと最後に会わなくて済んだことは、ルイス王子にとって、よかったのかもしれない。
「なに? あの程度で女性への夢も希望も失ったって? か弱すぎるわね」
ルナのお言葉は、この通りであった。
街道を移動するときに、ルナは計画を遂行した。
「みんなー、これあげる! 私が作ったティーバッグ!」
ルナが叫びながら、綺麗にラッピングされたティーバッグを投げると、あちこちで歓声が上がる。
人々が手を伸ばしてティーバッグを掴み取る姿に、ルナはニヤリと笑う。
「これ、神にでもなったみたいで楽しいわね」
「……だから、国民で遊ばないでくれ」
そんなユウェン王子の願いも虚しく、ルナはティーバッグを投げ続け、国民たちは喜び続けた。
「王子妃の配るお茶を飲むと、一年間風邪一つ引かないらしいぞ」
「そんな貴重なものを平民に配ってくださるなんて、なんで素晴らしいお方なのだ」
国民のそんな噂に、ユウェン王子はこう叫びたくなった。
「それ、ルナの廃品処理だから!!!」
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