第10話
「王子殿下のお怪我を治されていたと彼女から聞きましたが……」
いいことをした、という表情で一歩前に出てきたのは、件の侍女だ。一瞬般若のような表情を浮かべたルナはすぐに微笑みを浮かべた。
「なんのことでございましょう?」
「私、ルナ様が服をお脱ぎになった王子の背中を治療されているところを拝見しました! そして、王子のお背中の傷は綺麗に治っていらっしゃいました!」
「それはそれは……王子殿下。一度お背中を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「いや、それは……」
「本当に傷がなくなっているんです! あんな力でお叩きになられたのだから、絶対腫れていると思って、私は王子に何か冷やすものは必要かと声をかけに参りました。しかし、そこには半裸の王子をお癒しになるルナ様のお姿がございました!」
「待って、その表現だとなんか違う意味になる気がするわ!」
慌てたルナが突っ込むが、目をキラキラと輝かせた侍女は、さらに続ける。
「ルナ様は、まるで物語の中の聖女様のようでした!」
その発言を受けて、ルナと王子はまだ会話をする。どうする? 聖女とだけバラす? そうした方がいいと思うぞ? 聖女の力を隠すだけなら罪には問えないはずだ、と。
「ルナは聖女として認定されたくなくて隠していたが、聖女の力を有している。その力を応用させて、このような癒しを行ったのだ」
「おおっ! それでは、ぜひ大聖女としてこちらで……」
「私、聖女として認定されたくないのです」
ルナのあまりにはっきりと言い切る姿に、大司教は動揺する。そこに、侍女が言葉を重ねた。
「ルナ様と王子は思い合っていらっしゃるのです! 聖女にしてお二人を引き離すなんて……! そもそも、教会ではルナ様を卸しきれないと思います」
「卸しきれない、とな?」
「はい!」
元気よく侍女はルナの行動を説明する。話を聞いていくうちに、大司教の表情は強張り、こう答えた。
「ルナ様と王子殿下を引き離すのは申し訳ないので、大聖女と認定しようと教会での活動は一切不要とさせていただきます」
異例の免除発言に、ルナの表情は喜びに染まったが、理由が理由なだけに複雑であるようだ。
「ありがとうございます。ただ、王子と私は兄弟みたいなものですわ」
微笑みを浮かべながら言い切るルナの姿を、皆が“そんなわけ”という表情を浮かべてニヤニヤと見守っている。
皆が退出したあと、ルナはそっと王子に言った。
「もしかしてだけど、私がもう一度ユウェンをぶん殴って怪我させればよかったんじゃない?」
「あ……」
ーーーー
「ふん!」
ルナがいつものように水を出し、人々が感謝する。
次の街に向かうこととなったが、なかなか王子のお相手は見つからないようだ。
「ねぇ、ユウェン。どうするの? このままだと、私が王子妃よ?」
「とりあえずの繋ぎで、王子妃になっておくか? 聖女になるのも阻止できるし、僕の寵妃が見つかるまでの間だけ王妃として仕事をしてもらうが、それ以降はのんびり後宮で暮らしてもらえばいい。たまに仕事や相談を持ち込むかもしれないが…」
「うーん……他の条件は?」
「僕の離宮で菜園作り放題。仕事や相談の実績に応じて、種子や植物、その他必要物資を贈ろう」
「私の基本業務は?」
「原則今と変わらない。社交には出てもらうが、今より最小限にしよう。子を成すことは、“国王となり、国が安定するまで考えない”と周知し、そのよつなプレッシャーはなくす」
「乗ったわ」
このようにして、ルナの後宮生活が延長されることが決定した。
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