第18話

「ということで、最も疑いが強いのはアーベント伯爵だけれども、そもそも彼を操っていた人物がいたのではないかと私は考えるわ」


 やることがぬるすぎるもの、と言い放つルナは、果たして令嬢なのだろうか。


「アーベント伯爵は、我が国でも評価されており、先の件でも衝撃だったが、そんな馬鹿なことをするようなタイプには思えないのだが……」


 そう首を傾げる王太子にルナが言い放った。


「本当にあんたは甘ったれた坊ちゃんね。あれだけのことをしでかしたアーベント伯爵を信じたいだなんて」


「いや、そういうわけではなくてだな……」


 言いつのる王太子をルナが一喝する。


「この国の最高権力を手に入れようと、有象無象を使っているタイプよ、あれは。多少有能な分、めんどくさかったけど……。ああいうタイプは、指示者の証拠をきっとどこかに隠しているし、まだ手駒を隠し持っているはずよ。欲しい植物は、トローペン辺境伯にいただいたから、王都に戻って、証拠固めに走るわよ!!」


「ルナは何でそんなに突然、やる気を出したんだ? まぁ、父上をお守りしてくれると思うと助かるが……」


「甘いわね! 国王だけじゃなくて、あんたも守ってみせるつもりよ! 命をかけてでも、ね!」


 そう言ってウインクを飛ばすルナは、正義のヒーローのように素敵であったと、王太子は後に語ったとか。



「ほう……ルナ嬢が、命をかけて守りたいお相手は、王太子様と。それはそれは、我が国は安泰ですな」


 先ほどまでおびえていたのが嘘のように、ニコニコと笑みを浮かべるトローペン辺境伯は、目にもとまらぬ早さで走り去っていった。



「まて、その噂、どこに流すつもりだ!?」


 王太子の叫び声は、トローペン辺境伯の耳には届かなかった。



「何取り逃がしているのよ!」


「ルナだって、気にもとめていなかったではないか。そもそも、ルナが変なことを言うからだぞ!?」


 少し頬を染めた王太子に、ルナは反論するのであった。


「王族を命がけで守るのは、臣下の勤めでしょう!?」


「ルナがまともなことを言っている……明日は槍が降るかもしれぬな。王都に伝えよ!!!」


「ユウェン! まったく。まあいいわ。こんな辺境から王都まで、噂が流れるとは思えないもの」



”ユウェンよ、ルナ嬢が命がけで守りたい相手は、お前だと言ったそうだな。よくやったぞ、愚息よ! ルナ嬢に見捨てられないようにせいぜい励め”


出立の準備が整った頃、国王陛下からの緊急連絡用の魔術具で王太子へと伝言が飛んだのだった。




「嘘でしょ……」


「もう父上がご存じだと!??? どのような経路で広めたのだ、トローペン辺境伯!!」

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後宮スローライフ〜残念美少女が砂漠でオアシスを作り上げます 碧桜 汐香 @aoi-oukai

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