第7話

「久々にのんびりできるー! 王妃になるつもりもないのに、なんでこんなに働いてるのかしら?」


 ユウェンがつい、ルナに頼りにくるから、王妃のように働いているルナであった。


「元気にしてた? ミントちゃん、こんなに大きくなって! あ、そうだわ! ここに池があれば、水生植物も育てられるわね!」


 ルナは腕を組みながら、水が欲しい部分をそっと棒で囲む。


「ユウェンに頼む? うーん。流石に貴重な水は使えないわね……あ、そうだ! 聖女の力でいけないかしら?」


 話を聞いている人がいたら、聖女の力じゃ無理に決まってるだろ、と突っ込むところであった。


「ふん」


 ぼこ!


 まさかの水源も発生した。聖女どころの話でなくなったが、ルナは満足そうだ。


「こっちには食べれるものを、こっちには薬にもなるものを。あそこには蓮を植えましょう」


 ルナが生き生きしながら植物を育てていると、王子が現れた。



「ルナ……お前、どこからそんな水を? これ、僕は誰に報告すればいいんだよ!」


「あ、私が水湧かせたのはオフレコで」


「集めてきたんじゃなくて、湧かせた方かよ! ついに人間辞めたのか? 聖女は人間じゃないのか? 余計、報告が必要になっただろ! 水不足の地域、回ってもらうことになるぞ、これ!」


「いやよ! 私のんびりしたいもの!」


「お願いです。ルナ様。必要な植物をお届けします」


「……仕方ないわね。湧かせてあげるわよ。ユウェンの花嫁探しも兼ねて、一緒に行きましょ?」


「ぼ、僕もっすか!?」





ーーーー

「ねぇ、ユウェン。どうなってるの?これ」


「僕の妃候補=王子妃って思い込まれたのか? 国民たちも僕らの噂を信じ込んでいる……? いや、そんな、まさかな……」


 水不足の地域に向けて、王子とルナを乗せたラクダが進む。それを見た国民たちが、“王子ー! 王子妃ー!”と、叫ぶ。

 微笑みを浮かべた二人が手を振りかえすが、小声で“ルナは王子妃でない”とどのように伝えるか相談し続けていた。

 山火事に立ち向かうハチドリの一滴の雫となるとしても、二人の否定は噂の拡大を止めるのに意味があるのだろうと、二人は信じるしかなかった。






「集まってくれてありがとう、皆のもの。私の友人であるルナに、水源を見つける力があると発覚した。そのため、各地の水不足を解消するために、回ることとなった。では、ルナから一言願おう」


「みなさま、お集まりいただき、誠にありがとうございます。私はユウェン王子の友人であるルナと申します。父は、この国の宰相をしております。親子共々、この国のためにできることをしたいと望んでおりますわ」


 ルナの挨拶に、王子妃という掛け声があちこちで上がる。改めて否定しようと王子とルナは目で会話をすませ、ルナが再び言葉を放つ。


「期待させてしまい、申し訳ございません。私は王子妃ではなく、王子の古くからの友人で姉のような立場にあります。そのため、後宮を取りまとめておりますが、王子妃ではございません。相応しい方が現れたら、すぐにお譲りするつもりですわ」


 そんなルナの言葉を聞いた国民たちは、王子へヤジを飛ばす。


「ルナ様を王子妃に!」


「ルナ様にここまで言わせるなんて、男が廃るぞ! 早く結婚してしまえ!」


「ルナ様万歳! 王子妃万歳!」




 さすがに困惑したルナも王子の服の裾を掴み、こそこそと話しかける。


「なんで? 否定したのになんでこうなってんの?」


「わからん。わからん。わからん」



 その様子は、見ている国民たちの目には睦まじく映ったのか、より一層盛り上がった。






 その後、仲のいい王子夫婦と噂になり、“想いあっているのに、正式な夫婦じゃないから否定なさっている”と噂された。



「ルナ様も王子様も否定なさってた時の顔、私は本当だと思ったけど……」


「何言ってんのよ! ソレイユ。あの二人は王宮でもお互いの部屋に入り浸ってるほど仲睦まじいって噂よ!」


「そうなのかな……? でも、違ったらお二人がかわいそう……」



 二人の真実に気付いたのは、ソレイユと呼ばれた少女一人であった。

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