第8話
「ふんっ!」
ルナが砂地にスコップを突き刺す動作をする。
「おら!」
ルナが聖女の力を使う。
「る、ルナ……ありがたいんだけど、一応そこにいる神官が目を丸くしてるから、もう少しご令嬢らしい動きで、お願いできたら……」
「は? ……あー、仕方ないわね」
見かけ倒しすぎるルナの姿に、王子たちの一番近くにいた神官は、目が転げ落ちそうなほど驚いている。幸運にも、他の者には聞こえなかったようだ。
「……こちらから、水が出てまいります。このように、水脈を当ててお見せいたしますわ」
こぽっごぼっ。
水が溢れ出す様子に、周囲にいた人たちが驚く。人々の中には、涙を流している人もいる。
「助かった……」
「ルナ様すごい」
「ルナ様が次期王妃様なら安心だね」
「ルナ。なんかまずい方向に話が進んでないか?」
「私もそう思ってた」
「さっき思わず止めちゃったけど、ルナの残念令嬢っぷり、見せる方向で行った方がいいんじゃないか……?」
「そうね……次期王妃の座から逃げるためには、それもアリな気がしてきたわ」
「ルナ様。すごかったです! 私もルナ様のようになりたいです!」
「え? 本当? ありがとうー! でも私みたいにならない方がいいわよー」
「え、あれ?」
ルナの変わりように周囲が一瞬静かになった。
「る、ルナ様!? 私何か失礼を……」
「いや。私、普段こんな感じだから」
だらりと地面に横たわって、足で器用にお皿を引き寄せる。そして、横たわったまま食べ始めた。王子に声をかける。
「おい、ユウェン。さっさと追加の飲み物持ってきて!」
「だから、王子を足で使うなって……」
そう言いながら、飲み物を取りに行く王子の姿に、全員ぽかんとする。少し間が空いて、慌てた様子の侍女たちが王子の後を追い始めた。
「あ、ユウェーン! 追加のスイーツも!」
ばりぼりと音を立てながら、食べるルナは美しい装いと外見が態度と不釣り合いすぎて、まるで合成のようであった。
「王子! 私が用意しますので!」
「いいよ。ルナに絡まれると面倒だから、どこかに隠れてな」
「王子……」
王子への同情や王子のまめさを目の当たりにした人たちによって、王子ファンはかなり増えたようであった。
「ユウェン! この書類ダメダメ! やり直してきて! あ、そこにいる街の偉い人こっち来てー!」
寝転んだ体勢のまま仕事することを覚えたルナは、そのままの姿で湧き水についての説明に入ってしまった。飲み水として使うには一応煮沸する、などさまざまな指示をルナは出していた。
「え、その子かわいい。持って帰っていい?」
そう言って、ルナはソレイユを指差す。そんなルナを慌てて王子がしかる。
「人を攫うな! あと、立場的にも容易に知らない人を身近に置こうとするな!」
「えー。ねぇ、あなた。仕事できる?」
「え? あの?」
「ごめん。なんでもないから。ルナ! わかった、さっき欲しいって言ってたこの街のシンボルと言われた木の種、もらえないか聞きに行こう?」
「行く行くー! お嬢ちゃん、これ解いて。あと、ステラたちー? 調査!」
ユウェンに引きずられながら、ルナはソレイユに書類を投げ渡し、ステラたちにソレイユの身辺を洗うように指示する。
「……どうしよう。これ」
投げ渡された書類を見て、困惑するソレイユに、周囲の人たちも困惑する。
「ソレイユ。ルナ様を怒らせたらまずい気がするから、とりあえず解いておきなよ」
「そうする」
「ルナ様は、ソレイユが字を読めない可能性を考えなかったのかな? ソレイユは字が読めるからいいけど」
ーーーー
「ルナ! お前何やってんだ!?」
「あの子、ユウェンの好みそうだなーって思ったのよ。ユウェンがいらないなら、あの子私の侍女にするわ。話しかける前に、文官が持っていて風で飛んで行った書類を拾ってたじゃない? あの感じ、内容理解してたわよ」
「お前、いつどんなタイミングでその場面を見たか、一緒にいた僕すらわからない光景まで、なんで完璧に記憶してるんだよ…」
「一度見たものは普通に記憶に残るでしょ?」
「くそ! この天才が! 天才で聖女で魔法も使えるとか、この女に甘すぎるだろ! 神様!」
「まぁ、私可愛いし?」
「中身は残念だけどな」
そう言ったユウェンのみぞおちに、綺麗な一撃が決まった。
「ユウェンのくせに、ルナ様に失礼よ?」
「自分でルナ様って言うな! というか、王子だからな!? こっちは一応!」
「解けた!」
「もしかして、ソレイユ、お城で雇ってもらえるんじゃない?」
「え、そんなことあるかな?」
「でも、あの王子妃の下ででしょ?」
「「「うーん」」」
王子とルナの考えた残念令嬢作戦は、効果があったようだ。
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