後宮スローライフ〜残念美少女が砂漠でオアシスを作り上げます

碧桜 汐香

第1話

「本日から、後宮に入ることとなりました。ルナと申します。よろしくお願いいたします」


 砂漠の真ん中にそびえ立つ宮殿で、床に頭がつきそうなくらい丁寧な挨拶をする少女が一人。まばゆい満月のような美しい髪に、キラキラとゆらめく海のような瞳。その美しさは、目を見張るものであったが、玉座に座る男が少女を見る目は冷たい。


「お前が後宮に入るとはな。ルナ」


「私も第一王子の後宮に入れていただけるとは思っておりませんでしたわ。勝手にのんびりと過ごしますので、よろしくお願いしますわ」


「まぁまぁ、ルナちゃん。そんなこと言わずに仲良くしてやって? この子、照れてるだけなのよ! 初恋はルナちゃんなのよ?」


 第一王子の後ろから美魔女が現れた。母上、と第一王子が言い返すところを見ると、王妃であろう。


「あ、国王陛下は、ちょっと体調が芳しくなくてね……」


「あら、大変ですわ。よろしければ、気分がスッキリするハーブティーを後ほどお届けいたしますわ」


「まぁ! ありがとう。あの人も喜ぶわー」


 少女は第一王子の幼馴染であった。王妃の覚えもめでたい。しかも、第一王子の初恋の相手。後宮入りしたら、次期王妃として真っ先に候補にあがるだろう。



「では、第一王子。くれぐれも、私の部屋には来ないようによろしくお願いいたしますね」



 二人の関係が、冷え切っていなければ、だが。





◇◇◇

 第一王子がはじめてルナを見た時、あまりの美しさに恋に落ちた。が、中身を知って一瞬で恋から覚めた。むしろ、女性に夢も希望も失って、女性不信に陥った。

 めんどくさがりで女らしさのかけらもなく、見た目詐欺の残念美少女であったのだ。中身がおっさんと言うとおっさんに失礼であろう、と第一王子は言う。


「……くるなと言ったのに、なんでくるのよ。くそが」


「初日は部屋に来るしかないだろう。僕だって、できることなら自分の部屋で仕事していたかったに決まっている」


「あ、じゃあここで仕事しなよ。集中できるようなお茶、淹れようか?」


「ありがとう。助かる」


 ルナがハーブティーを淹れると、いい香りが部屋に広がった。仕事仲間としては息ぴったりだ。


「……そこ、違うと思うけど?」


「え? どこだ?」


「上から3列目、右から2つ目の数字。それくらい王子なんだから、見抜きなさいよ。全くユウェンは使えないわね」


「うっさい。だまれ」


 幼馴染らしく喧嘩しながら、過ごす。途中からルナが仕事を手伝い始め、とても初夜とは思えない光景が出来上がった。


 王子の名誉のために言っておくが、王子は仕事はかなり優秀な方だが、それを上回るレベルでルナが“しごでき”なだけである。






◇◇◇


「やば、寝過ごした」


 ルナがベッドから起き上がる。深夜まで仕事が捗ってしまい、二人とも寝過ごしたのだ。


「起きて、ユウェン」


「ん? 朝か……って、どんな格好してるんだ。恥じらいを持て! 恥じらいを」


「あ? 弟のような存在のユウェンに対して恥じらいを持つとか今更でしょ? 減るもんじゃないし、気にすんな」


 そういうルナは下着姿で理想的な肉体美を惜しげもなくさらけだしている。本人は、横にユウェンがいることも気にせず着替えているだけなようだが、ここまで意識されないとユウェンも男としての自信を失うだろう。



「あ、仕事の手伝いのお礼に畑ちょうだい」


「ルナが手伝ったのは、後宮の仕事の一部だろ」


「いいからいいから」


「畑とかこの砂漠の国に作れるか!」


「大丈夫。自力でなんとかするから」


「あー、聖女の力で……って、ルナは聖女だって隠してるのに、周りになんて説明するんだよ」


「え? 適当になんとか言っておいてよ。王子でしょ? あー。この肉うまー! じゃ、よろしくー」


 朝食にがっつきながら、ルナがめんどくさいことを王子に丸投げする。

 なんだかんだルナに弱い王子は、言うことを聞いてしまうのだろう。





「お二人で寝坊なさったとか」

「さすが初恋の君ね」

「ルナ様は寵姫だわ」


 こそこそと噂が広がっていく。


「王子の寵姫とかそんなの許せない! 私があのイケメン王子を落とすんだから!」

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