第2話
「さすがルナ様」
「ルナ様は相変わらずお美しいですわ」
後宮の他の妃たちに一目置かれ、完全なる正妃候補として扱われるルナ。微笑みを浮かべながらも、心の中ではめんどくせーと言ってそうな表情をしている。
この集まりは、ルナのための歓迎会だ。逃げられない。
「私、こちらではのんびり過ごさせていただくつもりですわ。第一王子ともそのように話が済んでおりますの」
「またまた」
「誰の寝所にも泊まらなかった王子が、ルナ様のお部屋には唯一泊まったとメイドたちが噂しておりましたわよ」
ルナがあいつ、と、そっと舌打ちしたところで、突然の来訪者が現れた。
「ルナって誰? ユウェン王子の正妃候補とか、許せないんだけど!」
「まぁ」
ルナの顔が喜色に染まった。ちょうどいいストレス発散道具と言わんばかりの輝く瞳だ。
「ルナって、あんた?」
「どなたか存じませんが、まず挨拶なさったらいかがですの?」
「隣国マルスの第十王女のララメールよ!」
ララメールは胸を張ってそう言った。マルスは大国だ。ララメールがここにいるのは、王子に惚れて圧力をかけて割り込んだからであって、マルス側にはララメールを後宮に入れることは、政治的には必要のないことだ。
「まぁ。あなたのお兄様方とお姉様方とは大変親しくさせていただいているわ。先週、お茶会にご招待していただいてね、」
ルナが語り続けるほどにララメールの顔色は悪くなっていく。マルスは長子を大切にする国柄だ。そんな兄姉たちとの仲の良さをアピールされると、兄弟でもあまり関わりのないララメールの旗色は悪くなる一方でしかない。ルナのあげたお茶会は、王が重要だと判断した人物を国賓として招待するものであり、王との繋がりも匂わせる。
「マルス王ったら、私を第一王子ユリウス様の婚約者に、なんておっしゃって……あぁ、ごめんなさい? あなたのことは特に伺っていなかったから……あ。わがままな末の姫がいる、とは……。あれ? もしかして、そちらのお姫様があなたかしら? えーと、ララ様でしたっけ?」
ルナは愛らしい笑顔でララメールに毒を吐き続ける。
「は、はい。ルナ様。私のことはララとでもお好きにお呼びください」
「で? 私に何かご用かしら? 私、後宮では正妃など目指さずにのんびりとしたいのですわ。ララ様が正妃を目指されるなら、応援いたしますわよ?」
「申し訳ございませんでした! 滅相もございません!」
「まぁまぁ、お待ちになって。私がお願い事をする時には、手伝ってくださるかしら? それとも、お兄様やお姉様を通した方がよろしいです?」
「もちろんです! ルナ様のお願いは全て手伝わせていただきます! 失礼します!」
すごい速さでララは逃げ去っていった。
「今回は流石に隣国の姫だから優しかったわね」
「あなたの時はすごかったものね」
「ルナ様に逆らおうとしたなんて恥ずかしいわ……あなたの時もすごかったわよ」
妃として選ばれ、妃となるために努力している者たちだ。ルナとは、候補として衝突することもあったが、皆、今はもう逆らうことは一切ない。
ある者は、ルナの実家を誹謗中傷したら、その者の実家を没落寸前まで落とし込まれ、その後救われた。そのため、ルナには頭が上がらない。
また別の者は、ルナに嫌味を言ったら、倍返しの嫌味と共に“私のお気に入り”とその者が苦手なウニョウニョ系……ミミズの箱詰めを送りつけられた。ルナとしては“釣りにも使えるし、土もよくするし”と、善意らしい。砂漠の国で釣りも畑も使い道がない。結局返納されて、ルナは喜んだ。
野菜の供給を止められたり、社交界で辱められたり、ぶん殴られたり、サソリを突っ込まれたり……ありとあらゆる手段で反撃されたのだ。今はもう誰もルナに逆らうことはないのだ。
ルナが唯一の寵姫と持て囃されようとも、誰も文句を言わない。後宮だけでなく、表の政治の世界でも、だ。皆、ルナの残念さを知っている。
「ユウェン。あんたのせいで寵姫扱いよ。なんとかしなさい?」
「そう言って、ルナが呼び出すから。また部屋に王子がって話にならない?」
「なんとかしろって言ってんのよ」
そう言って寝転んだルナは、恥ずかしげもなく放屁した。
「本当に、おま、あくまで、王子の面前だぞ?」
「私、胃腸が弱いのよ」
人前で恥ずかしげもなく、と言った説教は、ルナには効かない。これでも、許される人を選んで暴挙を働いているのだ。実際、王妃の前では猫を被り続けている。
「私と法案を詰める必要があったとか言い訳が必要だったら、これでも使って。後宮の調整なら、権力が偏りすぎてるところの実家の不正と不備のリスト。これでバランス取れるでしょ?」
さらりと書類を取り出し、次々と王子に投げつける。
「これ、水不足の抜本的な解決方法じゃないか! こっちは、貴族の不正防止に役立つな。まて、その不正と不備のリストはどうやって情報を……?」
「んー? まぁ、私聖女だから?」
「……聖女登録もしてないだろ!?」
こっそりお宅に忍び込んで証拠を頂戴してきました、とは流石のルナも言えず、誤魔化したが、王子はそれ以上追求しなかった。
この書類のせいで王子はこれまで以上にルナの元に行くこととなり、寵姫という噂は一層強まったのだった。
「ちゃんと寵姫のこと、否定しなさいよ」
「この様子を誰かに見せつければいいんじゃやいか?」
「いやよ。私の評判が下がるじゃない」
「お前の評判はこれ以上下がらないが?」
「ん? 傾国の美女って評判?」
「んな!? どの口が!?」
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