第13話⭐︎

⭐︎ユウェン王子視点となります




「西の隣国である、ウェストゥンより参りました。第五王子のルイスと申します」


 国王である父上に向かって頭を下げるルイス王子は、西のウェストゥンらしい都会風の顔立ちで、王子と言われたら、皆が皆、想像するような、肩のあたりから紐がしゃらしゃらと垂れているような服装をしている。金髪に碧眼で布をたくさん使う服を着て……国の豊かさやら王子らしさやら、いろいろ負けた気がする。第五王子を送ってきた辺り、砂漠ばかりのこの国を、ウェストゥンが下に見ているのは明らかだった。

 一方で、僕が着ている服は、砂漠の灼熱の中でも暑くないようなゆるりとした服装だ。王族の身であるため、決して生地が悪いわけではない。しかし、過酷な環境であるこの国では、衣類の生地は周囲の国々からの輸入に頼っているのが現実だ。


 どこか舐めた表情を浮かべていたルイス王子が周囲を軽く見渡す。ルナを見た時、大きく目を見開き、頬を染めた。確実に恋に落ちたのは、僕ですらわかったのだ。周囲の者もわかったであろう。

 ルナ本人は気づいたのだろうかと横目で確認すると、ルナはおそらく贈り物の植物が何かしか考えていないようだ。ルナは、この手の好意には、鈍感すぎるほど鈍感なのだ。

 なぜか知らないが、いつもは気にならないルナの服装の露出の多さが気に食わない。この国の服装文化を見直すべきだと法改正を訴えようと考えてしまうほどだ。



「そちらにいらっしゃるのは……?」


 ルイス王子が僕たちを目線で示しながら、父上に問いかける。


「あぁ、息子のユウェンとその妃であるルナだ」


 ルナを“妃”と言い切る父上に感謝する。聖女たるルナを他国に狙われるのは、許し難いことだろう。そう考えた自分の思考に、どこか違和感を感じる。なぜだ。今は、それどころではないから、気持ちを切り替えて、ルイス王子に挨拶をする。


「ルイス王子。はるばるウェストゥンからお越しいただき、感謝する。私はオリヤントの第一王子、ユウェンと申す。こちらは、妻のルナだ」


 流石に異国の大使相手だ。“私”と称して会話をした。普段、ルナの前では“僕”と言うことが多いが、きちんとしているときはきちんとしているんだぞ? まぁ、ルナに僕が誇ろうとも、ルナはそんなことを気にも止めずに菜園について考えているのだろう。ルナの植物好きは、ルイス王子にバレないようにしないといけないな。それで釣られたら困る。


「ルナと申します」


 美しい容姿で丁寧に礼をし、鈴が転がるような声で挨拶を交わすルナは完璧な美女だ。傾国の美女と言うよりかは、慎ましい印象を抱かせるだろう。ただ、余計なことを話さず、穏やかに微笑むルナの姿に、ウェストゥンだけじゃなく自国までみなが軒並み魅了されている。

 自国の大臣たちは頬を染めてルナを見つめている。中身を知っているはずなのに……。一方、ルナの残念さを知らないウェストゥンの使者の一人は、鼻血を噴出させ、王子は顔を赤くしたまま口をぽかんと開けたまま固まり、王子の側近らしき人たちはのぼせたような顔をしている。

 何も言わなければ完璧美女なのに、と思う一方、それではルナらしさが欠けるな、と心の中で首を振る。


 “妻”と表現したことにルナが何か文句を言うかと思ったが、特に何かを言うこともなく、受け入れてくれた。そのことに、胸が高鳴った気がする。なぜだろう。今日は疑問を感じることが多い一日だ。


 ルイス王子がルナに対して何か発言する前に、母上が話しかける。


「ルナちゃんはね、ユウェンの初恋のお姫さまなのよ! 私もルナちゃんのことを実の娘のように思って可愛がっているの! ふふっ、可愛いルナちゃんを自慢したくて、こんなお話して、ごめんなさいね?」


 母上の釘刺しに僕は感謝する。


「母上。恥ずかしいからやめてください。なぁ、ルナ?」


「王妃陛下……嬉しいですわ……!」


 母上の“実の娘”発言が思ったよりも嬉しかったらしく、ルナは喜んでいる。釘刺しを重ねるために、母上は続ける。


「王妃陛下なんて言わないでちょうだい? 公の場でも、二人きりの時みたいに“カトリーヌ”と呼んでいいのよ?」


「カトリーヌお義母さま……!」


 おいおい、二人きりの時は名前で呼ばせてたなんて知らなかったぞ。ただ、嫁姑関係も良好だと見せつけることができただろう。


 ここで、夫婦関係も友好だと見せつけておこう。そっとルナの肩に手を置き、耳元を手で隠しながら、こう囁く。


「ルナ、あとで一緒に植物がどんなものがあるか確認しような? 僕も手伝わせてくれ」


 僕のその発言に、ルナは目を輝かせながら、満面の笑みで振り返った。


「ユウェンと一緒に!? うん! 楽しみ!」


 僕の手を握りしめながら、喜ぶルナの姿をルイス王子に見せつける。ついでに、ウェストゥンの使者たちに圧をかけて視線を送ると、一斉に顔色を悪くした。ルイス王子は悔しそうだ。ルナは僕のものだと見せつけることができて、少しすっきりした。ウェストゥンにルナ……いや、聖女ルナは譲らないぞ?


「では、ルイス王子とみなさま。私とルナはこのあとの予定が控えておりますので、申し訳ないのですが、お先に失礼させていただきます。我が国でもごゆるりとお寛ぎください」


 予定にはなかったが、ルナを守るために先に退出することにする。父上と母上に視線を送ると、二人とも意図を理解してくれたようだ。いつもより、ルナと密着しながら退出する。


「ルナ、髪が落ちてきてるよ」


「え!? ユウェン、ありがとう!」


 ルナの髪を耳にかけ直してあげて、できる限りいちゃつきながら退出する。人前でこんないちゃいちゃする演技をしたことがないからか、胸がドキドキする。こういうことはルナ相手でも緊張するものなんだな。






「ふふっ、ルナちゃんとユウェンったら相変わらず仲良しなんだから」


「すまないな、お恥ずかしい姿をお見せしてしまって。息子夫婦が仲睦まじくて、私たちも安心しているんだよ。では、本題に入ろうか」






 その頃、ルナの諜報部隊であるステラは、西方にある元アーベント伯爵領で重要な証拠の一つを掴んでいた。


「国王の暗殺計画の件、ウェストゥンの貴族からの関わりを見つけました! ルナ様!」

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