第12話

「はったっけー!」


 ルナは喜んで離宮の菜園に飛び込む。

 今まで被っていた猫を放り捨てたルナは、のびのびと後宮でスローライフを過ごしているようだ。


「ねぇ、ソレイユ! そこの種、投げてー!」


「投げません。ルナ様」


 最初の街でスカウトしたソレイユは、ルナの侍女として、しっかり戦力となっている。



「ソレイユー!」


「はいはい、ルナ様」


 残念っぷりを発揮しているルナに対して、ソレイユは婆やのようにまめに面倒を見ている。



「ソレイユー! 服が泥だらけになった!」


「ルナ様、お気をつけてくださいと申し上げたではありませんか!」


「ごめーん!」



 ここは幼稚園かと言いたくなるレベルの内容でルナはソレイユを頼り続ける。

 当初王子の妃候補にと、ルナが連れてきたソレイユであったが、ルナがしばらく王妃をしていることとなったため、ルナ専属の侍女として働いている。




「ルナ、やっぱりここにいたのか」


「ユウェン! ええ、私の菜園にいるに決まってるじゃない!」


「規模がさらに拡大したんじゃないか?」


 そう言って王子が辺りを見渡すと、ハーブ類からカカオの木、りんごなどの果実の木から玉ねぎや人参といった野菜まで育てられている。


「あ、今日、厨房から新鮮な新玉ねぎを欲しがられてたんだわ!」


「ルナの野菜、僕たちも食べてるのか?」


「えぇ。美味しいって言われるから。まぁ、私の作った玉ねぎは普通よりも血液サラサラで健康になるわよ」


 えへん、と胸を張るルナに、周囲は“だから最近の食事の野菜があんなに美味しかったのか”と納得する。





「そうだ、ルナ、すまない。伝えることがあってきたのだが、西の国から王子の来訪がある。ルナにも王子妃候補として出てもらうこととなる」


「なんで私も!? わかったわ。ユウェンのことだから、報酬も準備してあるんでしょ?」


「今回、向こうの国から友好の証として持ってくる種子や作物に関するもの、すべてルナに渡していいと言われている」


 まぁ、この国の中で栽培や研究に一番適しているのはルナだしな、と思うユウェンの心の声はルナには聞こえない。


「うっそ!? まじで!? ありがとう!」


 飛び跳ねるルナを周囲は微笑ましく見守る。美しい顔面と釣り合わないボロボロでドロドロな服、飛び跳ねるごとに王子の服にかかり続ける泥。その泥を見て、一瞬顔を顰めそうになって慌てて微笑みを浮かべ直した王子付きの侍女長。カオスであった。


「あ、ごめん。ユウェンがドロドロだわ。一緒に泥遊びでもする?」


「しないに決まってるだろ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る