第14話 独白(恋中さんの場合
「今日の会話すっごい友達っぽかったよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
私は湯船に潜り、思い切り叫んだ。
「えほっ、おほっ、飲んじゃっ、ごほっ」
浴槽の縁に手を付き、プールで溺れかけた人みたいに咳き込む。
たっぷり十秒以上かけて息を整えた後、私は早くも上せたような気分になりながら、グッと腕を上に伸ばしてから軽く肩を回した。
「最近、肩凝り酷いなぁ」
いわゆる職業病だと思う。
まだ十代であることを考えると、ちょっとだけ将来が不安だ。
「……えへ、えへへ」
あー、もう、ダメだ。
ぼーっとしてるとニヤけちゃう。
「友達に触られるって、こんな感じなんだ」
私は彼がふれた指先を見て呟いた。
ドキドキする。自分で触る時と全然違う。
もっとふれられたい。
私からも、ふれてみたい。
「どうしよう。もう会いたくなってる」
部屋の前で「またね」と言ってから三十分も経っていない。それなのに、彼の声が聞きたくなっている。
「今、何してるのかな」
昨日まで彼の入浴時間は短かった。聞けばシャワーだけで済ませていたようだ。しかし今日は温まりたい気分らしくて、それで道具を買いに出かけたらしい。
彼はお風呂に入っているはずだ。
気になる。彼はどんな風にお風呂に入るのかな。そして、どんなことを考えるのかな。
「私のこと考えてたり……なーんてね」
その可能性は限りなく低い。
だけど、もしかしたら、と考えてしまう。
「だって相性ばっちりだから。えへへ」
これは彼が言ってくれたこと。
私は友達が居ない。いつも空回りして最後は一人だった。そんな私と過ごす時間を楽しいと言ってくれた。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
高校生になって良かった!
KDPは、すっごく順調だ。
当初の目標は三年間で一人でも友達を作ることだった。でもこれならチャレンジ目標の「男女の友達を一人ずつ作る」が達成できるかもしれない!
「なーんて、運が良いだけですよね」
彼は、たまたま隣の部屋に住んでいた。
私自身、今の部屋に引っ越す時、学校の近くを選べば……という狙いはあった。
だけど、まさかまさかである。
同じクラスの、それも相性の良い人がお隣さんになるなんて夢にも思わなかった。
でもでも浮かれちゃダメだ。
彼の言葉は、いわゆるリップサービスかもしれない。隣人と不仲になったら色々と不便だから、そういう面倒事を避けるために仲良くしてくれているだけかもしれない。
だからもっと友達レベルを上げたい。
休日遊びに出かけたりとか、名前で呼び合ったりとか、そういうことがしたい。
「
私は肩まで湯船に沈めた。
「……名前を呼ぶのって、なんでこんなに恥ずかしいのかな」
仕事の時は簡単に呼べる。
だけど、彼が相手だと難しい。
「どんな風に、呼べばいいのかな?」
彼は私のことを「恋中さん」と呼ぶ。
だから私も彼を苗字で呼ぶべきだろうか。
「……三杉くん、見過ぎだよ」
ぽつりと呟いた後、ちゃぷちゃぷと水面を叩いた。
「なーんてね! えへへ、こんなのSNSなら大炎上だよ。人の名前で遊ぶなんて最低。でも友達同士なら許される。友達すごい!」
私はしばらく暴れた後、ぼんやり天井を見上げた。
彼の趣味。
彼が喜ぶこと。
全部覚えて、全部やる。
それでもっと、私を好きになって貰う。
「……どうすれば、いいのかな」
彼はおっぱいが好きだ。
いつも私の胸をチラっと見るし、会話するようになったきっかけもおっぱいの話題だったから間違いない。だけど、それよりも、楽しそうな私を見ることが好きだと言った。
「……えへへ、えへへへ」
あんなこと、初めて言われた。
そもそも、こんなに長く交友が続いた経験は過去に無い。
「データを集めなきゃ」
愚者は経験に学び、賢者は過去に学ぶ。
人類の歴史には百億を超える人生があるのだから、唯一無二の経験があるなんて思うのは無知な自惚れだ。
忘れるな。
私はずっと一人だった。
彼が友達っぽく接してくれる理由は、ただのラッキーだ。
私は知っている。
人は、あっという間に一人になる。
だから油断しちゃダメだ。
もっともっと私と仲良くするメリットを示して、ずっと一緒に居て貰うんだ。
「でも私達は相性ピッタリだから。えへへ」
ぺちぺちと水面を叩く。
浮かれちゃダメだって分かってるのに、頬が緩んで仕方がなかった。
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