第13話②

 買い物を終えた私たちは3階のレストランにやって来た。その中でも今日はイタリアンレストランで昼食をとることにした。


 「…ど、どれも美味しそうだね。りゅー君はどれにするか決めたの?」

 「俺?そうだな……ナポリタンにでもするかな。はーちゃんは?」

 「わ、私はまだ悩み中。…シーフードグラタンにするか、ボロネーゼにするか」

 「その2つで迷ってるの?」

 「うん。どっちも美味しそうなんだもん…」


 なんとか選択肢を二つにまで絞れたけど、ここから先は優柔不断な私にとっては大変です。


 「なら……すいませーん!」

 「ちょ!まだ決めてないよ!」


 すると、りゅー君は私がまだ決めていないのに店員さんを呼んでしまいました。焦った私は早く決めなきゃと焦るばかりで思考がまとまりません。そうこうしているうちに店員さんが来てしまいました。


 「シーフードグラタン一つとボロネーゼ一つ。それから、ドリンクバーを二人分お願いします」

 「えっ!?」


 私がアワアワしていると、りゅー君は注文を終えてしまいました。それに、りゅー君が頼んだものは私が食べたくて悩んでいたもので、りゅー君が食べたいと言っていたナポリタンは頼んでいません。


 「りゅー君、聞いて!……あれ?りゅー、君、どこ?」


 私はそこからりゅー君との話が頭に入ってきませんでした。それでも、やっぱりりゅー君に我慢させるなんて私はしたくないので今からでも注文を変えるようにりゅー君の方を見ました。すると、さっきまでいたはずのりゅー君はいなくなっていました。それでりゅー君が私を置いて帰っちゃったんだと思った私は泣きそうになって俯きました。


 「ひゃっ!?」


 すると、私の首元に冷たいものが当たりました。急なことに驚いた私は慌てて後ろを振り向きました。すると、悪戯いたずらが成功したからか笑みを浮かべているりゅー君がいました。顔が赤くなるのを感じた私はついいつもの照れ隠しで彼を非難するような言葉を発してしまいました。


 「もう!ビックリしちゃったじゃん!」

 「ごめんごめん。でも、なんか落ち込んでいるような気がしたから気になって。どうしたの?」


 それでもりゅー君はなんでもないように笑って流してくれました。そして、両手に持っていたグラスを一つ私に渡してくれました。そこには私の好きなオレンジジュースが入っていました。それに、私が落ち込んでいることまで気付いてくれました。私はりゅー君がいなくなっちゃったと思ったから、という理由を隠して彼にもう一つの理由を話しました。


 「!気付いてたの?……さっきの。りゅー君はナポリタンが食べたいって言ってたのに、私に遠慮して変えたの?…そんなの、私、ちっとも嬉しくないよ!…私はりゅー君も楽しんでくれなきゃイヤだよ!」

 「あー、ごめん。それは俺の伝え方が悪かった。俺は別になんでもよかったからね。だからそんなに気にしないでよ」

 「…そ、そう、なの?無理してない?」

 「うん。無理なんてしてないって!」

 「…そっか。我儘わがままばっかりでごめんね。…ありがとう、私のためにいろいろしてくれて」

 「…ど、どういたしまして」


 彼はいつも私のことを考えてくれます。私のせいでいじめられていたときも、決して心配させてはくれませんでした。それも込めてのありがとうだけど、きっと彼には伝わっていません。それに、こんなことで伝えるなんてそれこそズルになってしまいます。


 「わぁ〜、美味しそう!早く食べよ!」

 「そうだね。じゃあ、二人で分けて食べよっか」

 「いただきます!」

 「ははっ、いただきます」


 私が考え事をしていると料理が運ばれてきました。湯気が出て美味しそうな匂いを撒き散らしているそれに私の意識は釘付けになりました。すぐに挨拶をしてりゅー君が用意してくれた小皿によそって一口食べました。


 「う〜!美味しい〜!」

 「ホントだ。凄く美味しいね」

 「うん!」


 私は思わず声を出してしまいました。それにすぐに同意してくれたりゅー君のおかげで二口目はさらに美味しくなったように思いました。


 それから食べ進めていた私は半分くらい無くなった後にどうしてもやりたかったことを思い出しました。それで挙動不審になってしまったのか、りゅー君にも気付かれてしまいました。


 「?どうしたの?」


 そう聞かれた私は思い切ってグラタンを一掬いして彼の口元に持っていきました。


 「ア、アーン」

 「えっ?ちょ、はーちゃん!?」

 「りゅ、りゅー君はいつもアーンしてるんでしょ?」

 「いやいや!どうしてそうなるの!」

 「だ、だって!言ってたもん!一昨日!」

 「いやいや!それは熱出したときだけだって!」

 「〜ッ!りゅー君のバカ!その前の日は香織ちゃんとアーンしてたのに!私のは食べてくれないの!?…グスッ」


 私はりゅー君にアーンしてあげたかったのです。看病のときにしてあげたドキドキ感が忘れられませんでした。それでも、なかなかいい返信をしてくれません。それが私が嫌われてる象徴のように思ってしまい、どんどん悲しくなってしまいました。


 「わ、わかったよ。アーン」

 「!ど、どう?」

 「…うん。美味しいよ」


 それでも、彼はすぐに私の求めに応じてくれました。それが嬉しくてニコニコしていると、まさかのりゅー君からのお返しがありました。


 「じゃあ、お返ししないとね。…アーン」

 「ふぇ?わ、私はいいよ〜」

 「…はーちゃんは俺のを食べたくないんだ」

 「わ、わかった。食べる。食べるから!」

 「美味しい?」

 「う、うん」


 恥ずかしくて断ろうとしたけど、私と同じような言葉で差し出されたので食べるしかありませんでした。初めて異性から、それも好きな人からアーンしてもらった私は緊張で味が全く分かりませんでした。それでも、りゅー君には知られたくなくて、見栄を張って美味しいと言いました。料理の味は分からなかったけど、胸がポカポカして温かくなりました。


 私はそのままグラタンの続きを食べようとしました。しかし、口に入れる前にとんでもないことに気付いてしまいました。それは、このスプーンがさっきまでりゅー君の口に入っていたということです。私は恥ずかしさを押し殺してなんとか食べることができました。


 「おお」

 「も、もう!りゅー君も早く食べてよ」


 そのとき、りゅー君からそんな声が聞こえてきました。それで私が食べるところを見られてたと気付いた私は恥ずかしくてりゅー君から視線を外しながらそう言いました。それからはりゅー君も一緒にグラタンを食べました。


 「…ボロネーゼもアーンする?」

 「勘弁してください!」

 「しょうがないな〜。私は優しいから勘弁してあげるよ〜」


 グラタンが空になった後で私は少し名残惜しくてそう言いました。それは無意識に出た言葉だったけど、否定してくれて安心しました。もし受け入れられていたら私の心臓が持たないと思います。けれど、そんな余裕のない内心を隠すように揶揄うような口調で彼に言葉を返してしまいました。……私が本音を言えるのはいつになるのでしょうか?


 それからはりゅー君がお手洗いに行っただけで何事もなく食事を終えました。


 「じゃあ、お会計は?」

 「…もう払ってあるから気にしないでいいよ」

 「えっ、なんで。割り勘でしょ?」

 「…ここは俺に払わせてよ。デートなんだから」

 「デ、デート……。し、仕方ないな〜」


 ご飯代を払ってもらうなんて申し訳ないけど、デートって言ってくれたのが嬉しくて、つい甘えてしまいました。……私も貰うばかりでなく、何か返したいな、とは思うけどどうすればいいのか分かりませんでした。

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