第8話②
私が久しぶりに触れたりゅー君の手は、私の手とは違いガッチリしてました。昔は同じような掌だったはずなのに、今では逞しい男の子の掌になっていました。それだけで私の心臓は破裂しそうなくらい早鐘を打っていました。
「う、うーん。……えっ?なんで白鳥さんが?夢?」
しばらくりゅー君の手の感覚を楽しんでいると、彼が目を覚ましました。まだ眠そうにしてるりゅー君はすごく可愛いと思いました。それに、私に会えたのが夢みたいに嬉しいって!(注、言ってません)……そんなことを思うなんて、やっぱり彼が大好きなんです。
私は自分の心を隠して、少し拗ねたような声を出しました。少しでも気を抜くと表情が緩んでしまいそうで、必死に耐えました。
「夢じゃないよ。……心配、したんだからね?酷いよ、メールにも出てくれないんだから」
流石にあざとすぎたかもと後悔してしまいました。
「メールくれたんだ。気付かなくてごめんなさい。…そうだよね。急にドタキャンしたのに理由さえ伝えないなんて、…最低だな」
彼はすごく申し訳なさそうに謝ってきました。ただの照れ隠しだったのに、そこまで深刻に答えられるとは思っていませんでした。そこまで私のことを考えてくれてるのに、私は自分の気持ちを隠してるなんて、フェアじゃないように思いました。だから、私は自分の不安を打ち明けることにしました。
「別にそこまで気にしなくてもいいのに……。てっきり私が嫌いだから来てくれなかったのかと思っちゃったじゃん」
「そんなことない!俺は白鳥さんが…はーちゃんが好きだ!」
「ふぇ?」
最初は何を言われたのか分かりませんでした。ハーチャンガスキダ?その意味がだんだんと理解できてくると、顔に熱が集まるのが分かりました。
聞き間違いかもしれない、はーちゃんは好きでも白鳥さんは嫌いかもしれない、そもそも、別のはーちゃんかもしれない。
そんな想いも出てきたけど、頭の中で「はーちゃんが好き」という言葉がぐるぐる回っています。もうそれしか考えられなくなってしまいました。
「あっ、そっ、その!…不意打ちはズルいと思う」
ほんとにズルいと思います。りゅー君はきっと、深い意味を考えずに言ってる気がしますが、私がどれだけ嬉しくなるか分かってるんですか⁉︎
「?ごめん、でいいのかな?」
「もう!それでいいよ!…私も大好き」
「えっ?なんて?」
「何でもないよ〜だ!ふん!」
…今は小声でしか言えないけど、いつかあなたに伝えられるといいな。…彼がこんなにも踏み込んできてくれたのに、私は全く変われていません。
「そっか。…今日は来てくれてありがとね。白鳥さんの顔を見たら元気出てきたよ」
「…はーちゃん」
「えっ?」
「白鳥さんなんてヤダ!はーちゃんって呼んでほしいの!……ダメ?」
彼に白鳥さんと呼ばれて、浮かれていた気持ちが一気に落ちていきました。まるで彼に、はーちゃんは好きだけど、白鳥さんは好きじゃないと言われているような気分になりました。
……まるで、ではなく実際にそうなのでしょう。私はそう言ってしまってから、すごく後悔しました。最近はりゅー君とも話せるようになってきたから、調子に乗りすぎてしまいました。また彼と話せなくなるくらいなら、こんなことを言わなければよかった。そう思ってももう遅いです。
「…ダメじゃない。はーちゃん。…これでいい?」
「うん!ありがと、りゅー君!」
りゅー君はやっぱり優しいです。そんな彼にまたはーちゃんって呼んでもらえるだけで、胸がポカポカします。
……私もりゅー君って呼んでみたけど、どうでしょうか?変ではありませんよね?
コンコン
「ご飯できたよ」
私がりゅー君と話し込んでいると、香織ちゃんが部屋に入ってきました。…楽しい時間はあっという間に終わってしまいました。
「あっ、じゃあ、私はもう帰るね。早くよくなるといいね」
ほんとはまだまだりゅー君と一緒にいたいけど、食事の時間までいるのは迷惑だからね。
「えっ?はーねーは食べていかないの?一人分多く作っちゃったのに……」
「でも、流石に悪いよ」
「…ダメ?はーねーが帰っちゃったら、私は独りでのご飯になっちゃうよ……。それは、イヤだな」
香織ちゃんのその一言が私の心に刺さりました。"独りの食事は寂しい"それは、私が日々感じていることでした。りゅー君がいるこの場所を離れたくない!そんな想いで残った私だけど、寂しくないと言ったら嘘になります。
「わがまま言わないの。お兄ちゃんが一緒に食べてあげるから」
「お兄は黙ってて!…風邪は治りかけが肝心なんだよ!それでまた体調悪くなったらどうするの!お兄はちゃんと寝てなさい!」
「…はい」
「ふふっ、仲がいいのね。…じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら?」
私は香織ちゃんのためだと自分に言い訳してご馳走になることにしました。普段は我慢してましたが、家族がいて、みんな仲良くご飯を食べられることが羨ましかったんです。
…もちろん、私の両親も私に愛情をたっぷり注いでくれていました。だからこそ、それがなくなった今はどれだけ尊いことか分かります。
「うん!ありがと、はーねー。……いや、お
「お、おね⁉︎…まだ気が早いんじゃないかしら?」
「え〜。だって、私はお義姉ちゃんが欲しかったんだもん!いいでしょ?」
「ちょっと待て!お姉ちゃんがってどういうことだ!それを言うなら、お姉ちゃんもだろ!」
…りゅー君は香織ちゃんの言葉の意味がよく分かっていないようでした。それでも私にはハッキリと伝わりました。私は恥ずかしくて、とっさにまだと言ってしまいましたが、気付かれなかったみたいです。
「…ハァ〜。全く、お兄は。……まぁいいや。お粥作ってきたよ。…ふぅー!ふぅー!…はい、アーン」
どうやら、香織ちゃんにはバレてしまったみたいです。……それにしても、どうしてお粥を食べさせようとしているのでしょうか?揶揄ってるだけ、ですよね?
「あむ。……うん、美味しい。ありがと」
「なっ、なにやってるのよ!」
と思ったのに、りゅー君は全く躊躇せずに食べていました。なんて、なんて羨ま……けしからんのでしょう!兄妹でもそういうのはよくないと思います!
「?どうしたんだよ、急に」
「どうしたってこっちのセリフよ!なんで、あ、アーンなんてしてるのよ!」
「?いつものことだぞ?」
「えっ⁉︎いつもアーンしてるの?」
「?そうだよ」
…どうやら、りゅー君と香織ちゃんの仲は思ったよりもいいみたいです。
「…わ、私がりゅー君と話すのを我慢してた間に香織ちゃんとそこまでの仲になってるなんて。……はっ!やっぱり、一番のライバルが香織ちゃん⁉︎」
私は思ったことが無意識に外に出てしまいました。
……それとももしかして、アーンをするのは普通のことなのでしょうか?私は恋人だけだと思っていましたが、もし私がやっても彼は食べてくれるでしょうか?
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