第6話②
私は初デートの準備のために春花と一緒にデパートまでやって来ました。
「うーん。でもなー。今でも白亜は十分可愛いしな。…とりあえず、服買いに行こっか」
「ありがと、春花〜」
春花の服装は淡いピンクの花、桜かな?がところどころに散りばめられている白いワンピースです。高2にしては少し幼稚かもしれない服のはずが、春花が着るとお嬢様のような雰囲気になり、とてもよく似合っています。
…それに対して、私はこんな休日なのに制服で買い物に来てしまいました。私は服のセンスはあまりありません。学校ではいつも制服なので気にしませんが、努力してもどうにもなりませんでした。…決して悪いわけではないと思います。それでも、毎年のようにおすすめの服が変わる意味がよく分かりません。おすすめはいつでもおすすめであるはずだ!と思うのは私だけですか?
私たちは早速服屋に向かいました。それでも流行などは分からないので春花にお任せになってしまいました。他の人にはあまり頼れませんが、ダメなころの私を知ってる春花には弱いところも見せることができます。
「じゃあ、これとこれかな?ちょっと着てみて」
「わ、分かった。着てみるね」
そう言われて差し出された服は真っ黒で、肩の部分に切れこみが入っていました。普段なら絶対に選ばないような服だけど思い切って着ることにしました。
「ど、どうかな?」
「うん!バッチリ似合ってるよ!…それに合わせるなら、下は薄い色の方がいいかな?これ履いてみて」
そう言って渡されたのも自分じゃ選ばない水色のスカートでした。それを履いて試着室を出ると、春花は腕を組んで難しそうな表情をしていました。
「うーん、なんか合わないな。…よし!やっぱりこっちの服にして」
そうして渡されたのは一番最初に着た黒い服の色違いみたいでした。それは紺色となっていて、水色のスカートにぴったりだと思いました。それを着て試着室を出ると、今度は春花も満足そうに頷いていました。
「うん!いい感じだね。…もうちょっと攻める?」
「…攻めるって?」
春花の言ったことの意味が分からず聞き返すと春花は近づいてきました。そして、耳元でそっと「大胆にする、ってこと」と囁いてきました。
「だっ、大胆なんて無理だよ〜。恥ずかしいもん」
「えー?デートなんでしょ!今攻めないでどうするの!」
「で〜も〜」
「…ま、白亜にとっては今でも十分攻めてるか」
その言葉に私は自分の格好を見直しました。ひし形に露出した肩に、膝上までしかないスカート。こんな姿でりゅー君の隣に立つことを想像して急に恥ずかしくなりました。顔に熱が集まってきて、真っ赤になっているのが自分でも分かります。
「アハハ。やっぱり白亜は可愛いなぁ」
「もう!
「ごめんごめん。…次はどうする?」
「…まったくもう。じゃあ、お昼ご飯にでもする?」
「さんせ〜」
今試着した服を買った私たちは飲食店を探しながらデパート内を見て回ることにしました。しばらくすると一軒のファミレスが目に留まりました。…正確にはその店内にいる一組の男女です。
「ん?どうしたの、白亜。ここにする?」
急に立ち止まった私を不審に思ったのか、春花がそんなことを聞いてきました。でも私はそれに返す余裕がありません。遠目からで、さらに後ろ姿だったけど間違いなく彼です。
「…りゅー、君」
「えっ、楠木君がいるの?どこどこ?」
私は無意識のうちに彼の名前を呟きました。とても小さくて弱々しい声だったけど、すぐ隣にいた春花にだけは届いたようです。私は震える手をファミレスの方に向けました。
「えっ、あのカップルが⁉︎…あっ」
春花は"しまった!"という感じで口を押さえました。けれど、春花でなくてもカップルだと思うでしょう。泥棒猫(りゅー君と一緒にいる女性)が身を乗り出しているとはいえ顔がくっつきそうなほど近くにいるんですから。
泥棒猫は同性の私でも美しいと思うほどでした。座っているけどりゅー君とほとんど変わらないスラリとした背丈に肩口で切り揃えられたサラサラしてそうな金髪。顔には少し幼さも残っていて、おそらく年下。…男の人って年下の女性が好きって聞いたことあるけど、本当かな?
なにより特徴的なのは服装です。普通の外出用のカジュアルな服装なので、可能性は2つです。そもそもカップルでないか、服装を気にしないくらい近しい間柄か。既に何回もデートをしていたら服なんていちいち気にならないんじゃないでしょうか?(偏見)…どれも私にはない魅力ばかりです。
しばらくイチャイチャしてるりゅー君たちを見ているとナポリタンとオムライスが運ばれてきました。…りゅー君はナポリタンが好きなんでしょうか?今度機会があれば作ってあげましょう。
「…えっ」
それが私の口から漏れた言葉だとしばらく理解することができませんでした。りゅー君は自分のナポリタンを泥棒猫に食べさせてあげるなんて!私だってりゅー君に"あーん"してほしいのに!羨ま死ね、泥棒猫!
りゅー君もまんざらでもないような顔で泥棒猫のオムライスを食べてるし…。私にはあんな表情してくれないのに。…やっぱりアレがりゅー君の好きな人なのかな?
「大丈夫?」
「大丈夫だから」
「…でも」
春花が心配そうに声をかけてくれました。それでも私は強がって1人でその場から走り去ってしまいました。朝は晴れていたはずの天気が急に曇ってきました。私が家に着いたころには雨が降り始めてきました。それはまるで私の心のようでした。
「…何弱気になってるんだろう?りゅー君に好きな人がいるなんて分かりきったことじゃん。…それでも私は諦めない!明日はで、デートなんだから」
私は自分自身に言い聞かせるように声に出してそう言いました。りゅー君が誰かと付き合うまでは全力でぶつかって、後悔だけはしないようにしなくちゃ!もし無理なら幼馴染みとしてだけど、…絶対に振り向かせてみせる!私はそう意気込んで布団に潜り込みました。
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