デート…失敗⁉︎
第6話①
俺は次の日に妹の香織と一緒にデパートにやって来た。デート用の服を買うためである。
「お兄。早く行こうよ」
「はいはい」
香織は俺の腕をひいて急かしてきた。俺がそれに適当に返事をすると香織は不機嫌そうに頬を膨らませた。
「もぉ〜!お兄の為なんだからね!私は受験もあるのに!」
「そうだったな。ありがとう」
香織は俺よりも2歳年下の中学3年生だ。それでも今日一日は俺の買い物に付き合ってくれるみたいだった。
香織は同年代の女子に比べて背が高く、白鳥さんが160cmくらいなのに対して170cmくらいあり、俺とほとんど変わらない。家では絡んできて面倒くさいけど、学校では口数も少なくモテるみたいだ。…正直よく分からんけど。でも、わざわざ付き合ってくれるんだから、良い奴ではある。
俺たちは連れ立って服屋にやってきた。店内に入るなり香織は3着もの服を持ってきた。
「お兄、まずはこれ!試着してきて!」
言われた通りに最初の服を着てみた。濃い藍色の服は落ち着いた雰囲気があり、俺の好みにも合っていた。よく見ると少し明るい藍色のチェック柄が入っていて、暗くなりすぎないようにもなっていた。
「これはいいんじゃないか?なぁ、香織」
「あ、うん。じゃあ、これとこれも着てみて」
「……。分かった」
香織は既に新しい服を持っていて、それを押し付けてきた。…ちぇっ、いい感じだと思ったのにな。
それから10着ほどの服を着たけど、一番最初の藍色の服を買うことに決めた。2000円くらいかと思って値札を見ると7980円だった。いつもはユニシロで買ってる俺は驚いて二度見してしまった。…高っ!
その後香織に連れられて美容院にやって来た。香織が言うには「お兄は顔はいいんだから、隠してたらもったいないよ」ということみたいだった。
「お客様。本日はどのように致しましょうか?」
「えっ?…え〜っと」
「どのくらい切ってほしい、などありますか?」
「…お任せします」
それからも店員さんは何度も話しかけてきたけど上手く会話を続けることができなかった。…普段から拓磨とくらいしかまともに会話してない俺には女性の店員さんの会話のペースに翻弄されてしまった。
散髪が終わった後は香織とデパート内のファミレスに来ていた。
「お兄はどれにする?」
「そうだな〜。ナポリタンにでもするかな」
「いいね。じゃあ、私はオムライスにしよっと!後で一口ちょうだい」
「ああ、いいよ。そのかわり、そっちも一口くれよ」
「うん!取引成功だね!」
「取引って…。まぁいいや」
俺は早速注文した。ふと香織の方を見るとワクワクと目に書いてあるような気がした。香織にとってもいい息抜きになったならよかった、と思っているとずいっと顔を近づけてきた。
「それでそれで!デートって誰と?」
…って、ワクワクしてたのはそれでか⁉︎
「この前、『俺、告白するんだ』って言ってた人?」
「…ああ、そうだよ」
俺の真似をしてるのか、少し低い声を出してキリッと目を細めた。…女子としては高身長の香織がやるとカッコいいっちゃカッコいいけど、ウザイとしか思えない。
「キャーーー⁉︎どっちから誘ったの⁉︎どうやって誘ったの⁉︎もしかして、もう付き合ってたり⁉︎」
「うるさい、落ち着け。ウザイ」
そう言って香織の頭を軽くチョップした。
「ひっどーい。暴力はんたーい」
香織はそのままわざとらしく頬を膨らませた。俺がその頬を軽く押すと、プシュ〜という気が抜けるような音の後香織の頬は萎んでいった。
「アハハ」
「もう!…フフッ」
「…チッ。バカップルが。…こちらご注文のナポリタンとオムライスです。以上でお揃いでよろしいでしょうか。…ごゆっくりどうぞ」
丁度そのタイミングで料理が運ばれてきた。ウェイターの女性は嫌々といった感じで事務的にそれだけ言って去っていった。
「感じ悪〜。ま、しょうがないか。ね、彼氏さん。一口ちょうだい」
そう言って香織は口を開けた。俺はナポリタンを食べやすいようにフォークに少し巻き付けて香織の口に差し出した。
「あむ。…う〜ん、美味しい!…お兄もはい」
香織はオムライスの端っこの方をスプーンですくって俺の方に向けた。
「…って、ケチャップの付いてない端っこじゃん!まぁいいけど。…あむ。…美味い」
「ねぇ〜。やっぱり交換はいいね!美味しさが2倍になって、幸せも2倍だよ。いや、2乗だよ!」
香織は本当に幸せそうな表情をしている。受験生だから勉強してるアピールかもだけど…1は2乗しても1のままだからな?そう思っても言葉には出さなかった。
ファミレスを出るころには雨が降り始めていた。
「…雨。降水確率30%って言ってたのに。どうしよう」
「香織は折りたたみ傘持って来なかったのか?」
俺が持って来た折りたたみ傘をバッグから出して言うと香織は頷いた。俺はそのまま傘を香織に押し付けた。
「これ使えよ」
「でも、お兄が…」
「俺は大丈夫だから。可愛い妹を濡らすわけにはいかないからな」
「…もう。ありがと」
申し訳なさそうにする香織に
「おかえり、ってどうしたの?びしょ濡れじゃない!香織は?」
「折りたたみ傘貸してきた」
「あらあら。すぐお風呂入っちゃいなさい」
「分かった。ありがとう」
出迎えてくれた母さんにお礼を言って浴室に向かった。軽くシャワーだけ浴びてお風呂は帰ってきた香織に譲った。
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