第14話②
食事を終えた私たちは4階の映画館にやってきました。その映画は幼馴染みの恋愛でヒロインの設定が私と似ているから気になっていた作品です。
「…えへへ。なんか緊張するね」
「そ、そうだね」
薄暗い映画館の中で隣には好きな人がいます。そんな状況に私のドキドキが収まりません。それでもりゅー君はそっけない返事をするだけです。
「…えいっ!」
「…えーっと、はーちゃん?」
「…さっきのお返しだよ」
「〜ッ!」
私はそれがなぜか無性に悔しくて、映画が始まってからりゅー君を
映画は親の都合によって転校しなければいけないとなったヒロインを主人公が引き留めるものです。私はあまり遠くではなかったこともあり、無理を押し通すことができました。それでも、もし私の一人暮らしを受け入れてくれなかったら?りゅー君と離れ離れになってしまったら?そう考えると胸が苦しくてたまりませんでした。
「グスッ、良かったよ〜」
想像以上にヒロインと自分を重ねてしまった私は映画が終わった後も涙が止まりませんでした。すると、りゅー君がハンカチを差し出してくれました。
「…あ、ありがと」
「うん。どういたしまして」
私はお礼を伝えてハンカチを受け取りました。それで涙を拭くと、りゅー君の香りが仄かに漂ってきました。りゅー君が気を利かせて反対方向を向いている間に彼にバレないように何度もそのいい匂いを堪能しました。
「…ハンカチありがとう。じゃあ、次に行こ?」
「そうだね。……ハンカチは?」
「…あ、洗ってから!洗ってから返すよ!」
「そんなこと気にしないでいいのに」
「私が気にするの!……それとも、りゅー君は私のな、涙が染み込んだハンカチが欲しいの?」
「〜ッ!あ、あーもう!わかったから。じゃあハンカチは預けておくよ」
「!ありがとう!」
それでも、いつまでもそうしているわけにはいかなかったので、なんとか理由をでっち上げてハンカチの返却を拒否しました。…これは私にとっての宝物です!
「5階がゲーセンで、6階がカラオケだって。どっちに行く?…あっ、下の階での買い物でもいいよ」
「う〜……ゲ、ゲーセンがいいかな?」
「了解。じゃあ、行こっか」
私が戦利品に頬を緩めないように必死に耐えていると、りゅー君が次の予定を尋ねてくれました。…やっぱり、彼は私の希望を優先させてくれます。どうにかして彼にお返しをしたいと思った私は一つの計画を思いつきました。なので、私はゲーセンに向かうことにしました。
「あれ!あれやりたい!」
ゲーセンに到着した私は早速目的のものを探しました。すると、あっさりと見つけることができました。
「あれって…クレーンゲーム?」
「うん!一回やってみたかったんだよね〜」
「じゃあ、やってみる?」
「うん!」
私は生まれて初めてのクレーンゲームをりゅー君からやり方を聞いてやってみました。これなら運が良ければ100円で景品を取ることができるので、遠慮なく受け取ってくれるかもしれません。それに、自分で取ったものなので、市販のものよりも気持ちが伝わると思います。
「な、なんで〜!なんで取れないの!」
「まぁまぁ。クレーンゲームなんてこんなもんだって」
「…も、もう一回!次こそは取れるはず」
それでも、なかなか思うように景品をゲットすることができませんでした。意地になった私はなんとか取ろうとさらにお金を注ぎ込みました。
「ヒグッ、エグッ。……つ、次こそ、お願い」
…そう思っていた時期が私にもありました。それでも、10回もやって全く進展がないことは予想外でした。これはまるで、私が何をしてもりゅー君との仲は進展しないと言われているみたいでした。
「もう俺がやるよ」
「それはダメ!…私が取らないと意味ないの」
「そんなこと言ったって…」
それでも失敗した私は涙で滲んだ視界で新たな100円玉を取り出そうとしました。すると、それよりも早く後ろから100円玉が入れられてしまいました。驚いた私が振り返ると、それはりゅー君でした。
「あっ!りゅー君!どうし、ふひゃぁ!」
「いいから!」
「〜ッ!」
私がりゅー君に非難しようとするとりゅー君は私の手を握ってきました。そして、耳元で普段は使わないような強い口調で強引にそう言ってきました。突然のことで頭が真っ白になった私は素直に従うしかありませんでした。
「わぁ!すごいよ、りゅー君!二つも取れるなんて!」
すると、私が苦戦していたのが嘘のようにいとも簡単にクマとネコの二つのヌイグルミを取ってくれました。そして、その両方を私に渡してくれました。
「ははっ、たまたまだって。それに、最初はもっと手前で止める予定だったから、最後まで動かしてたのははーちゃんだよ。だから、はーちゃんがすごいんだよ」
「!あ、ありがと。慰めてくれて」
りゅー君は私が気にしないようにそう言ってくれました。その気遣いが嬉しいと同時に私の目論見が失敗してしまった申し訳なさも感じました。
「……ねぇ、りゅー君。私が取ったやつじゃないけど、コレ、受け取ってくれる?」
「えっ!?はーちゃんが欲しいんじゃないの?」
「うん。今日の思い出としてりゅー君に持ってあげたかったんだ」
「…そっか。じゃあ、ありがたくもらうよ」
それでもりゅー君は私が取ったわけではないヌイグルミを二つとも受け取ってくれました。
「これははーちゃんに受け取ってほしい」
りゅー君は私にネコのヌイグルミを渡そうとしてくれました。私が渡すのを拒否しないで、さらに同じようにして思い出深く渡してくれるりゅー君の優しさが嬉しかったです。
「えっ?…でも、この子たちは一緒にいたいから二つも取れたんだと思うの。だから、それを引き離すのは可哀想だよ」
それでも、りゅー君から受け取る資格は私にはありません。それこそ私のもらいすぎになってしまいます。
「じゃあ、なおさらこの子ははーちゃんが持ってるべきだよ。……いつかまたこの子たちを一緒に並べて飾れるように、その予約として受け取ってほしい」
「…りゅー君。…うん、わかった。このネコちゃんは私が預かるね」
それでもりゅー君は私に渡そうとしてくれました。そのときに言ってもらえた言葉は私にとって婚約のように聞こえました。そんな願望の混ざった解釈をしたけど、そんなわけないことは分かっています。それでも私は幸せな未来の約束のために受け取りました。
それから私たちは目に付いたゲームを片っ端からやりました。いつまでもこの時間が続いてほしいと思っても帰る時間がやってきてしまいました。それでも私は写真を撮れると女子に人気のパリクラだけは頼むことができませんでした。
「…ねぇ、りゅー君。今日は楽しかったね。…でも、ちょっと寂しいかも」
電車の中で今日一日が楽しかった反動か、ものすごく寂しくなってしまった私はついりゅー君に不安を漏らしてしまいました。半月前は想像もできないような幸せが手に入りました。それでもその先を求めてしまうのは私がまだまだ子供だからですか?まだりゅー君に釣り合えませんか?
「俺も楽しかったよ。…また、来ようよ、絶対」
「!そう、だね。また来れるもんね」
それでもりゅー君は私の不安を一発で解決してくれました。嬉しくなった私は手に持っていたヌイグルミを
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