第16話②

 今日からは学校が始まります。この休日は今までで一番楽しかったと言っても過言ではないくらい充実してました。大好きなりゅー君との距離も大分縮まったような気がします!


 「おはよ〜、りゅー君!今日から学校だね!」

 「そうだね。……学校ではこんなに話せないよね」

 「……そう、だよね。私がりゅー君を遠ざけたんだもん。当たり前、だよね……」


 …そう、でした。私は何を浮かれていたんでしょうか?学校で仲良くするなんて、できるはずないのに。じゃなきゃ、またりゅー君が虐められてしまうかもしれません。それだけは絶対にイヤです。…もう一生学校なんてなくなればいいのに。私はそう考えて、慌ててそれを追い払いました。りゅー君にはそんなことを考える自己中な人だと思われたくありません。


 …そうです。そんなことを考えるのは無駄なことです。結果が変わらないなら楽しんだ方がいいはずです!未来のことを考えて憂鬱になるよりも、りゅー君の家で髪を整えて貰っている今を楽しんだ方が絶対にいいです!


 「……ねぇ、何で俺を避けるようになったの?」

 「そ、それは……だって、りゅー君が虐められちゃうから」


 私が彼の大きな掌の感触を楽しんでいるとそんなことを聞かれました。普段だったら誤魔化してたかもしれません。でも、今は正直に話してしまいました。…この温かい環境にもっといたいと思ったからかな?


 「…えっ?」

 「りゅー君は覚えてる?私が誘ったお昼ご飯を断ったこと」

 「もちろん。そのせいで嫌われたのかと思ってたよ」

 「りゅー君を嫌いになんてなるわけない!!」

 「…そう、だったんだ。俺のため…」


 彼は私の言葉を噛み締めるようにそう呟いていました。…もしかして、そんな理由でずっと避けてた私は呆れられたのかな?でも、しょうがないよね。


 私は大好きなりゅー君を守りたい。たとえどんなものを犠牲にすることにしても。


 「なら、もっと学校でも話してほしい。俺にとって辛いのはあんな虐めよりもはーちゃんと話せないことの方だから…」


 …それなのに、りゅー君は私の望む言葉をかけてくれました。そういうところは昔からずっと変わりません。だから私はずっと甘えてしまいます。


 「りゅー君。…いいの?そんなことまで望んでも。りゅー君は辛くならない?」

 「もちろん!」

 「〜!うん、私もりゅー君と話したい!」


 …そうやっていつもりゅー君は私を優先してくれるんです。嬉しい、と思う反面胸の奥に鈍い痛みが走ります。りゅー君にはもう好きな相手がいるんです。


 「…私もね、思ったんだ。りゅー君といつも一緒に居れるのは特別なことなんだって。幼馴染みってだけじゃいつか離れていくんだって」


 …それが私の最近の悩みです。また少し距離が近づけたと思っても、最後にはまた離れ離れになってしまうと思います。だから私は幼馴染みじゃなくて、彼女になりたいんです。


 「…私ってバカだよね。そんな簡単なことも分からないなんて」


 そう言ってしまった後で、彼ならきっと否定してくれるだろうと思いました。無意識だったとはいえ、そんな言い方になってしまったことに自己嫌悪してしまいそうです。


 「そんなことないよ。はーちゃんは凄いよ」


 やっぱり、優しい彼は否定してくれました。気を使わせてしまったことに申し訳なくなってしまいます。


 「…俺が助けてあげる、なんてもう言えないくらい」

 「!覚えててくれたの?」


 でも、私の気持ちなんてその後の彼の言葉ですぐに吹き飛びました。もしかして、私との結婚の約束も覚えていてくれたのでしょうか?


 「…って、髪型崩れちゃうよ!」

 「そんなことはどうでもいいの!」

 「いや、どうでもいいって…。まぁ、いいや。覚えてるって何を?」


 …私は何をそんなに期待していたのでしょうか?そんなことはあるはずのない夢物語だったのに。そもそも、私とりゅー君が仲良くしていたのはずっと前のことです。今はきっと何も思われてない、もしくは嫌われてると思うのに…。


 「覚えてないなら仕方ないよ。…ねぇ、私はりゅー君を支えられるようになったのかな?」


 …でも、もしもまだ私にもチャンスがあるなら…。そう思ってそんなことを聞いてしまいました。彼が約束を覚えていたら、告白と同じことです。


 「もちろん!俺はずっとはーちゃんに支えられてるよ。むしろ俺の方こそはーちゃんの助けになれてないよね」

 「りゅー君はずっと私の支えなんだよ。…けど私もりゅー君の支えになれてるならよかった」


 私はそのときした結婚の約束を胸にずっと頑張ってこれたんです。だから、私が変われたならそれはりゅー君のおかげです。大好きな彼には少しでも良く思ってもらいたいから。


 「…あの時の約束、私はまだ有効だと思ってるからね」

 「約束?何かしてたっけ?」

 「うん。私にとっては一番大切で希望の約束」

 「…ごめん、俺、覚えてなくて」


 …きっと彼にとっては何でもない普通の日常だったんでしょう。それでも、私にとっては大切な日だったんです。りゅー君から結婚の許可をもらえたと思ったから…。


 「謝らないで。…じゃあ、もしも思い出していいと思ってくれるなら、今度はりゅー君から言ってほしい。私は受け入れるから」

 「分かった」


 …私はずっと待ってるから。もし、りゅー君の好きな相手と上手くいくようなら、負け犬の私はちゃんと応援するから。せめてそれまでは近くにいさせてください。

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