変化する日常

第16話①

 それからはあっという間に時間が過ぎ、GWゴールデンウィークも終わりとなった。俺は風邪をひいたけど、高校で最も充実した休日を過ごすことができた。


 「おはよ〜、りゅー君!今日から学校だね!」

 「そうだね。……学校ではこんなに話せないよね」


 俺は今では家にいるのが当たり前のようになったはーちゃんとそんな会話を交わした。はーちゃんはもともと幼馴染みだったこともあり、すぐに香織や両親とも仲良くなっていた。


 それでも、俺がこんなにはーちゃんと仲良くしてるのがおかしいことくらい分かっている。学校ではみんなの憧れのようになっているはーちゃんと空気の俺。それが幼馴染みってだけで一緒にいられる時間はとうの昔に終わっているんだ……。


 「……そう、だよね。私がりゅー君を遠ざけたんだもん。当たり前、だよね……」


 はーちゃんは悲しそうにそう言った。朝ご飯を食べ終えた俺ははーちゃんの背後うしろにまわった。そしてはーちゃんの髪をかし始めた。これはご飯を作ってくれるはーちゃんへのお返しとして始めたことだった。こんなのが本当にお返しになるのかどうか分からないけど、はーちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしてくれてるから気にしないことにした。


 「……ねぇ、何で俺を避けるようになったの?」

 「そ、それは……」


 俺ははーちゃんにずっと気になってたことを聞いた。多分俺が無意識にはーちゃんを傷つけるようなことをしちゃったんだと思う。それを改善しないかぎり昔みたいには戻れないと思った。それなのに、最近は話せるようになったのが嬉しくて、それでも話せない状態に逆戻りするのが怖くて聞けなかった。そんな中で、ようやくチャンスがきたから俺は思い切って聞いてみることにした。


 「……だって、りゅー君が虐められちゃうから」

 「…えっ?」


 はーちゃんが話してくれた内容は俺想像してたものと全く違った。…俺のため、だったんだ。


 「りゅー君は覚えてる?私が誘ったお昼ご飯を断ったこと」

 「もちろん。そのせいで嫌われたのかと思ってたよ」

 「りゅー君を嫌いになんてなるわけない!!」


 ……そっか。はーちゃんに嫌われてるんじゃないかって思ってたのは勘違いだったんだ。それなのに、俺は勇気が持てなくてはーちゃんに話しかけられなくなっちゃってたんだ。


 俺はすごく後悔した。はーちゃんが好きだと思っているのに、その覚悟がものすごくちっぽけなように思えた。まるで、その程度のことで諦めるような思いなんだと……。


 「…そう、だったんだ。俺のため…」


 やっぱり、俺たちは言葉が足りなかったんだ。ずっと一緒だから分かってくれる、そんな風に思ってたのかもしれない。なら、ちゃんと言葉で伝えないといけないよね。もう、同じ失敗をしないために…。


 「なら、もっと学校でも話してほしい。俺にとって辛いのはあんな虐めよりもはーちゃんと話せないことの方だから…」

 「りゅー君。…いいの?そんなことまで望んでも。りゅー君は辛くならない?」

 「もちろん!」

 「〜!うん、私もりゅー君と話したい!」


 俺は即答した。周りからどう思われようと、好きな人と一緒にいたい気持ちの方が圧倒的に強かった。はーちゃんはどうか分からないけど、少なくとも会話すらイヤと思われていなくてよかった。


 「…私もね、思ったんだ。りゅー君といつも一緒に居れるのは特別なことなんだって。幼馴染みってだけじゃいつか離れていくんだって」


 …そう、だよな。俺とはーちゃんは幼馴染み。だからこそ、俺は彼女の特別になりたいんだ。


 「…私ってバカだよね。そんな簡単なことも分からないなんて」

 「そんなことないよ。はーちゃんは凄いよ。…俺が助けてあげる、なんてもう言えないくらい」

 「!覚えててくれたの?」


 俺がそう言うとはーちゃんは俺の方を振り返って身を乗り出してきた。その真剣な眼差しに俺は引き込まれそうだった。


 「…って、髪型崩れちゃうよ!」

 「そんなことはどうでもいいの!」

 「いや、どうでもいいって…。まぁ、いいや。覚えてるって何を?」


 俺がそう言うとはーちゃんは小さくため息を吐いた。


 「覚えてないなら仕方ないよ。…ねぇ、私はりゅー君を支えられるようになったのかな?」

 「もちろん!俺はずっとはーちゃんに支えられてるよ。むしろ俺の方こそはーちゃんの助けになれてないよね」


 …そうだ。俺ははーちゃんに相談されてたんだった。それなのに、全く役に立ってないな。きっとはーちゃんも落胆してるんだろうな。


 「りゅー君はずっと私の支えなんだよ。…けど私もりゅー君の支えになれてるならよかった。…あの時の約束、私はまだ有効だと思ってるからね」

 「約束?何かしてたっけ?」

 「うん。私にとっては一番大切で希望の約束」


 そう言われても俺は何も覚えてなかった。…やっぱり俺は最低だな。好きな人と一度した約束すら忘れるなんて。


 「…ごめん、俺、覚えてなくて」


 俺は正直に謝ることにした。見栄を張ってウソを吐いてもきっとすぐバレるし、はーちゃんには些細なことでもそんなことはしたくなかった。


 「謝らないで。…じゃあ、もしも思い出していいと思ってくれるなら、今度はりゅー君から言ってほしい。私は受け入れるから」

 「分かった」


 はーちゃんの目が本気だったから、俺はそう返すしかなかった。

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