第17話①

 「どうせなら2人で学校に行けば?」


 俺たちの準備が終わるのを見計らったようなタイミングで香織がそう言い出した。俺はその方が嬉しいけど、はーちゃんはイヤだろ。


 「…いい、の?私はりゅー君と一緒に登校したいな」

 「あ、ああ。俺もはーちゃんと一緒がいい」

 「…そ、そう」

 「…うん」


 はーちゃんが受け入れてくれた、それだけですごく嬉しかった。だけど、気恥ずかしくなってはーちゃんの顔をまともに見れなかった。


 「ハァ〜。とっとと行ってくれば?」(全く、早く付き合えばいいのに)


 それから俺たちは香織に追い出されるように家を出た。


 …会話がない!いや、当たり前だけど。家を出てから一言も話してないのに、もう学校まで半分くらい来てるよ。


 「…ねぇ、りゅー君。りゅー君の好きな人って、どんな人なの?」

 「えっ!?」


 いきなり!?…まさか、本人だって言うわけにはいかないよね。そんなことをしたらこの日常が無くなっちゃう。だから、今はまだ。


 「…俺が好きなのは努力家な人だよ。不器用なのに全部に一生懸命で、常に全力。しかも、それで結果を出してるんだもん。…俺も努力してるつもりなのに、あっという間に追い越されちゃった」


 …って、完全にはーちゃんのことじゃん!


 「そう、なんだ。今もその人のことが大切なんだね…」

 「ああ。彼女のためならなんだってやる。…はーちゃんの好きな人は?やっぱり拓磨?」

 「そんなわけない!!」


 はーちゃんはすぐに否定した。そんなはーちゃんは見たことがなくて、俺は自分の知らないはーちゃんがいるみたいでイヤになった。…もう、俺の知ってるはーちゃんじゃないんだよね。


 「私の好きな人はもっと私を見てくれる!助けてくれるの!あんな人と一緒にしないで!」

 「ご、ごめん」


 俺は謝ることしかできなかった。…でも、ならなんで俺なんかに相談したんだろう?俺には他に親しい人もいないのに。……ハッ、そうか。だからなのか。俺と一緒でも変な噂が立ったりしないから。


 「あれ?白亜?それと楠木君…、ああ、なるほど。頑張ったね」

 「春花!?そんなんじゃないよ…」


 そのときにバッタリ会ったのははーちゃんと仲がいい櫻井さくらい 春香はるかさんだった。それから二人で話し始めてしまった。…俺は邪魔かな?


 「じゃあ、先に行ってるね。白鳥さんも櫻井さんもまた後で」

 「あっ…」


 後ろからはーちゃんの悲しそうな声が聞こえた気がした。後ろ髪を引かれるような感覚があったけど、もしかしたら幻聴かもしれないからこのまま立ち去るのがいいよね。


 「待って待って!」


 そう思ったのに櫻井さんから腕を引っ張られた。


 「お邪魔虫の私はすぐに行くから、二人は一緒に登校してね!じゃ!」


 そしてそれだけ言うと櫻井さんは返事も聞かずに走り去った。そして俺とはーちゃんが残された。


 「じゃあ、行こっ?」

 「…そう、だね。俺がいたせいでごめんね。友達と一緒の方が良かったよね?」

 「?私はりゅー君も友達だと思ってるよ?」


 はーちゃんから言ってもらえたその言葉は、俺の胸の一番奥に突き刺さった。…やっぱり、嫌われてると思ったのは勘違いだったんだね。友達だと言ってくれた。


 「じゃあ、行くか」

 「うん!」


 俺はそう言って手を差し出した。はーちゃんもすぐに頷いて俺の手を取ってくれた。自然にそうできたのは浮かれていたからかもしれない。俺たちはそのまま学校にやってきた。


 ……いや、何で手繋いでるの!!アレ〜、おかしいな。いつ離せばいいのか分からない…。周りの視線は感じるけど…学校に着いちゃったよ!!


 「あっ…」


 下駄箱に着いて手を離したらはーちゃんからそんな悲しそうな声が聞こえてきた。チラッと見てみると物寂しそうに自分の手を見つめていた。


 …何で!!そんな悲しそうなの!!俺が間違ってるのかな?


 「…早く行こっ?」


 手を握りしめているはーちゃんに気づいたら俺はそんな風に声をかけていた。そして一緒に手も差し出した。…俺の勘違いなら恥ずかしいけど、はーちゃんが悲しんでる姿を見るよりもよっぽどいいよね。


 「〜ッ!うん!?」


 はーちゃんは嬉しそうに両手で握り返してくれた。改めて繋ぐのは恥ずかしかったけど、はーちゃんの輝く笑顔を見れたからよかったかな?

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