あらゆる感情が濃すぎて息ができない

安是の里では、女は恋をすると光る。
比喩でもなく、本当に体が光る。愛しいひとを思って頬を染めるように、誰にも譲らぬと熱く猛って。

主人公のかすみは、そんな里でたったひとり光らない女。
彼女の母の悪行によってかすみは里の中でも「かすのみ」と蔑まれ、里人たちから侮蔑の目で見られ、あるいは無視されて生きてきた。
そんなかすみを光らせたのは、黒狐の仮面を被った物の怪――燈吾。彼はかすみにとって唯一、自分を認め、愛してくれたひと。
かすみと燈吾の、許されざる愛の物語……かと思いきや、これはそんな軽々しい言葉で一括りにしてはいけない物語です。

恋情、憎悪、嫉妬、欲望、絶望……あらゆる感情が濃く美しく、時に醜くリアルに描かれていて、読んでいてもずっと息苦しくなるほど。まさに物語に出てくる「黒沼」に飲まれてしまうかのよう……。
人間の醜い部分がこれでもかとあらわにされ、それは主人公かすみでさえも例外ではない。
とても深く、濃い、物語でした。

何かもう……すごかった(語彙)。

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