〇色香が漂う文体と、読む手が止まらないストーリー

この小説を気軽に「性描写有り」なんて言いたくない。
確かに性描写はある。だがそれこそが真骨頂だ。
性とは生に通ずると気付かされる。

そしてこの作品内の性描写は、明らかに芸術の領域まで達している。
淫らなエロスが花開く。時に美しく、時に残酷に。
それが読む者の目をとらえて離さないのだ。

今作の舞台である架空の村「安是(あぜ)の里」に住む女は、恋をすると光る。
ファンタジックともいえる設定だが、物語は古来からの因習に縛られた田舎の村で展開する。
娘宿や祭りといった昔の日本に存在していた風習が盛り上げてくれる。
閉鎖的な田舎の村をのぞいてみたい衝動があるなら、必ず満足できるはず。

生きているのか死んでいるのか分からない主人公の母、誰か分からない父親、反目しあうほかの里など、気になる謎が散りばめられていて読む手が止まらない。

もう一点、都会には文明開化の足音が聞こえている時代だというのも面白い。
田舎は近世どころか中世もかくやという暮らしぶりなのに、世界は変化しているのだ。

美しくも残酷な官能を味わいたいなら、ぜひ読むべき。

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