カラスを知らない人はいないかと思いますが、「慈鳥」という別名を知る人は少ないのではないでしょうか。実際、私も知りませんでした。
三羽の慈鳥たちを主軸に、三つのエピソードからなるこちらの物語、テーマは「生と死」です。
ある少年に、女子中学生に、そして老婆に。生きている以上、どこかしらで考えざるを得ないテーマが、それぞれの形で訪れます。
…と言ってしまうと重めに感じてしまい、敬遠したくなる方もおられるかもしれませんが、そこはシンプル且つ遊びの効いた筆力のある作者様。
決して重くなり過ぎず、それでいて読後には少し考えさせられる様な…それぞれのエピソードに伴った、じんわりと染み込む解を用意して下さっています。
ちょっとだけ脱線してしまいますが、作者様は愛すべきオカメインコの飼い主であり、鳥類に関しての造詣も非常に深い方です。
この事実が、エピソードを通して登場する三羽の慈鳥たちを非常に生き生きと描写する事に生かされています。
更に、作者様は「生」をテーマとした執筆を得意とされています。いくつもの作品を書かれていますが、そのどれもがつい唸ってしまうほどの完成度です。
もうお分かりかと思いますが、作者様の「好き」と「得意」が余す事なく詰め込まれたのが本作です。つまり、面白くないはずがないんです。
例えば、何故カラスを敢えて「慈鳥」としているのか…等、あまり多くを語ってしまうと、ネタバレになってしまいます。
三羽が覗き見る人間の世界と、彼らを取り巻く生と死の物語。息苦しくなく拝読出来てしまう良作を堪能していただけると、嬉しいばかりです。
3作の短編からなる命を描いた物語です。
生とは? 死とは? 誰もが避けられない問いに、真正面から向き合っていきます。
それぞれの短編に出てくる人間の登場人物は異なりますが、共通しているのはカラスたち。慈鳥と呼ばれる彼らの視点から、生と死に関する哲学が紡がれます。
人生において身近な人やペットの死を経験しない人はいないでしょう。
それは祖父母世代に訪れ、やがて親世代に、そして一歩ずつ本人へと近づいてくるもの。
我々は限られた「生」という期間を、神様から与えられた借り物の肉体で経験しているのに、日頃からつねに命について考えている人は少ないはず。
でも日々感謝をもって、かけがえのない時間を過ごしていくために、生きる、ということについて考えてみませんか?
限りある命を精一杯生きるすべての人におすすめします。