この物語には人外の力が宿っている

この作品を読むのは二度目です。
一度目は衝撃的な展開と鬼気迫る描写に圧倒され、凄まじい作品を読んでしまったという感覚が残りました。
しかし、二度目の通読ではその光彩がさらにくっきりと浮かび上がり、やはり怪物のような作品だと改めて思い知らされます。

五感に訴えかける文章。
むせかえるような山の匂いの濃さ。血糊のついた手でべったりと頬を撫でられるような感触。口の中で噛みしめる泥の味。虐げられながら生きてきた主人公のかすみが身をもって味わう瞬間のひとつひとつが、読者にも五感を通して沁み入ってくるようです。

因習に支配された舞台で繰り広げられるおどろおどろしい地獄絵図。しかし壮絶な物語の根底にずっと流れ続けるのは、恋慕を超えた深い愛であり運命の絆であり、その一本の揺るぎない芯に絡まるようにして、無数の人間の「業」がうごめいています。
濃厚に甘美に、時に禍々しく光り濡れる女の情念。その炎に焼かれる度にしたたかに凄味を増してゆく主人公。

読了後も暗紫紅の光と青白い蛍火が脳裏に焼き付きます。まるで物語そのものに人外の力が宿っている。そういう作品だと思います。

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