第13話 閉ざされた扉
翌朝はワタシの方が出勤時間が早くて、奥の部屋に籠もっている真依が目覚めていることは漏れている明かりから知れたけど、そのまま支度をして家を出た。
恐らく真依はワタシがいなくなってから出てくるつもりだろう。
真依をここまで怒らせたのはかなり久々だった。
今の状況では謝るしかないと分かっているものの、真依が会ってくれないので謝ることもできない。
今日は金曜日だし、週末に時間を掛けて謝ろうと考えながら会社に向かう。
システムトラブルがあったこともあって、ワタシはここ2日最優先のメール以外は放置していた。メールボックスで未読のメールにやっと目を通し始める。
一つずつ確認をしている中で、ワタシの所属するチームの親睦会の案内が来ていることに気づく。メールの送信時間はトラブルが起きる少し前だ。
先々週くらいに出欠確認が回ってきていて、入社したばかりということもあってワタシは出席で返事をした。
集合時間は明日の10時で、集合場所も考えれば平日の出勤時間と大差ない時間に出ないといけない。
失敗した。と思いながらも、流石にドタキャンはできなかった。
その日仕事から帰ると、家の中は昨日と同じで、真依が奥の部屋に籠もっていることは分かった。
帰って来ない、でなかったことには胸をなで下ろしながらも、扉の前まで行っても、そこから先の一歩が踏み出せなかった。
隠しごとをしたら別れると、一緒に生活をする前に言われていたことを思い出す。
真依との生活は楽しくて、一緒に居られるのが当然になって、ワタシはその生活に胡坐をかいていたのかもしれない。
真依が引きこもってる部屋の前まで向かって、扉に触れようと手を握り締めるものの、そのままどうすることもできずに腕を下ろす。
謝って許してくれる様がワタシには浮かばなかった。
それどころか触れればもっと大きな事態になるのではないかという不安がある。
真依には夜の内に明日は会社の親睦会で日中に出かけることだけをメッセージを送って、翌朝いつものようにワタシは一人で電車に乗った。
待ち合わせの場所でチームメンバーと合流して、今日の取り纏め役についてぞろぞろ移動する。
今日の参加者は30人くらいで、ワタシと一緒に仕事をしているメンバーもいれば、別のシステム担当のメンバーもいる。
でも、今の会社は創設して比較的浅いこともあってか、若手が多い。上の方の人も40代に乗っているかいないかで、ワタシは上の方の年齢層になるくらいだった。
親睦会の催しは、リアル脱出ゲーム系で、ワタシはそんな場所に行くのも初めてだった。チーム分けをして6人1組でチャレンジする。
今までにも同じような脱出ゲームにチャレンジしたことのあるという今年の新入社員が中心になって、ぞろぞろとついて行く。
結局脱出は失敗したけど、意外と頭を使った時間だった。
その後は、近くのファミレスで軽く打ち上げをして、場は謎解きで盛り上がった。
盛り上がれるような気分じゃなかったけど、相づちだけを入れておく。
真依がここにいれば楽しいのに、とそんなことしか考えられなかった。
夕方前には解散をして、一人になる。
そうなると帰るだけなのに、そのまま帰りたい気分じゃなかった。
真依は引きこもっているだろうし、ちゃんと話をするにしても、疲れた今日じゃなくて、頭の回ってる明日にしたい。
久々に飲みに行こうかな、と地下の飲み屋街に向かった。
日本酒の蔵元が直営するというカウンターだけのお店に入って、隅に座ってから冷酒を注文する。
一口口に含んでから、溜息を吐いた。
ワタシは真依と別れる気なんて全くないし、真依に全力で謝るしか道はない。
でも、どうすれば真依にそれを伝えられるだろうか。
うっかりミスを繰り返す子供のように、ワタシは同じことばかりを繰り返してしまっている。
いい加減真依の中で、ワタシへの信頼は落ちきっているだろう。
次から次へと湧き出るマイナス感情をお酒で惑わす。
ワタシはやっぱり駄目な人間なんだろう。
過去の恋愛はどれも上手く行かなかったけど、全てがワタシに原因があったことじゃないと思ってきた。
でも、全部ワタシが原因だったのかもしれない。
優しさに甘えて、初めての相手となった彼に、ゲーム感覚でしかないと言われたこと。
人を信じられなくて、遊び相手を求めて、満たされなさに飢えたこと。
気も合って、体の相性も悪くなかった相手が、いつの間にか買い物中毒になってしまったこと。
告白されて付き合った相手が、実は二股を掛けていて、一方的に別れを告げられたこと。
でも、真依だけはワタシは手放したくない。
ワタシにできる誠意って何だろうか。
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