第27話 sisters talk

佳澄と関わった事情を少しだけ柚羽に話をした後、走って家まで帰ると言う柚羽を、真依の指令でワタシは送っていくことになった。


いつものようにカーシェアの予約を入れてから近所の駐車場に向かう。


その後ろを柚羽は黙ってついて来ていた。


運転席にワタシが乗り込むと、渋々柚羽が助手席に座る。真依は柚羽を送るくらいなら1人でできるよね? と家で留守番だった。


「ナビに目的地入力してくれる? 降ろして欲しい場所を入れてくれたらいいから」


ワタシは、柚羽が今の恋人と一緒に棲むために引っ越してからの家を知らない。


柚羽の操作を待って、案内開始ボタンを押してから、ワタシは車を発進させた。


方向的には前の柚羽の家に近くて、近くの公園を柚羽は気に入っていたので、引っ越し先もそこまで離れた場所じゃないのかもしれない。


「柚羽、今回のことはワタシが一番悪いって分かってる。真依は許してくれたけど、それに甘えてるだけじゃ駄目だって反省もしてる」


「口だけじゃない、いつも」


真依に関わるなと言われた柚羽の機嫌がいいわけがなく、一言一言に棘が含まれている。


「そうだね。誰も傷つかないようにってぎりぎりまで自分で問題を抱えて、その結果最悪の事態を招くのがワタシなんだなって、今回の件で痛感した。それで柚羽を今までに傷つけたって自覚もあるよ。ごめんなさい」


「今更謝って貰っても遅いから」


ワタシはもっと早くに柚羽に謝らなければいけなかったのに、それができなかったからこそ今の状態になっている。


「柚羽にとってワタシはもう姉妹でいるのも嫌な存在だよね。いつかはそれを回復できればいいと思ってるなんて言うと怒るだろうけど、まずはワタシは真依とのことを優先させたい。真依を好きで、柚羽に取られたくなくて、必死で藻掻いたんだから、それを手放したら何も意味がなくなっちゃう。

さっき真依も言ってたけど、柚羽とワタシたちはもう別々の道を歩き始めたんだから、ワタシは何よりも真依との関係を大事にしていきたい」


「それならそれで、真依を泣かせるなんてことしないでよ」


「それは頑張る。今回のことでワタシはどんなことがあっても真依を最優先しないと駄目だって思った。今までもそう思っていたけど、ワタシは行動にできていなかったって反省した。だから改めるつもり」


「勝手にしたらいいじゃない。もう真依なんか知らない」


口出しをするな、と真依に言われたことが、柚羽にとっては大きな衝撃だったのだろう。


だって、柚羽は真依のことが気になって夜遅くにわざわざやってきたのだ。


「柚羽は真依のことより、今の恋人を大事にしてあげて。ワタシを反面教師にしてくれればいいから」


「自分で言わないでよ」


「柚羽にとってのワタシの価値なんかそれくらいなんじゃない?」


「無神経で自己中心的で、それなのに真依を独占して、お姉ちゃんなんか死んじゃえばいいのにって何度も思ったよ」


「うん」


「それなのに真依はお姉ちゃんを選んだ」


柚羽が最後にワタシの背を押してくれたのは、真依がそう望んでいることに柚羽が気づいていたからだ。


でも、それは真依を想う柚羽にとって、身が裂かれるような辛さを伴うものだっただろう。


それをワタシは分かっていて、真依を手にした。


「ごめんね。真依だけは手放せないから」


「知ってる。わたしは今恋人がいて幸せだから、真依に戻るはないよ。ただ、それでも真依には幸せでいて欲しいだけ」


ワタシが佳澄に願ったことと、柚羽が真依に願ったことは、似ているのかもしれない。


「それはワタシが頑張るから」


「信頼ゼロだからね」


「分かってる」


ナビが目的地付近であることを告げて、ワタシは柚羽のナビゲートで交差点の少し手前の路肩に車を停めた。


「ここから近いの?」


「このマンション」


柚羽が指したのは、車を停車したすぐ横のマンションだった。


「子供もいる人だって真依に聞いたけど、3人で住んでるんだよね?」


「うん。真依、話してないんだ」


「話してないって、何が?」


「何でもない。お姉ちゃんはさっさと帰って真依に慰めてもらったらいいんじゃない?」


「……柚羽、今日は有り難う。真依を心配して来てくれたのに、逆に柚羽を傷つけるようなことを言ってしまってごめんなさい。真依はワタシとパートナーになった意味を真剣に考えてくれたから、ああいう言い方になったんだと思う。そこはお互いに線を引いた上で、真依とは会社では今まで通り接して欲しい。ワタシには近づきたくないでいいから」


「言われなくてもそうします。バカな姉に真依が付き合い切れずに落ち込むなんてことも、普通に想定してるからね」


「そうだね。そうならないようにしないとね」


「期待してません」


ワタシの言葉には興味がないと言った素振りで柚羽は車を降りる。


「じゃあ」


『また』なんて言葉は柚羽とワタシの間で使える言葉じゃなかった。


もうワタシの妹は、自分の家族を持つ大人で、ワタシが注意を払わないといけない存在じゃない。


別々に柚羽とワタシは既に歩き出している。


それでも、またどこかでワタシと柚羽は交差するだろう。

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