partner in crime - prime number 2 -

海里

第1話 プロローグ

[注意]

この話はprime numberに出て来る須加すがあおいの話になっています。


時系列的にはprime numbr→降る星を数え終えたら→本作の順です。


葵の話を望まれない方、NGタグが含まれている方は、読む or 読まないをご判断の上、スクロール or バックしてください。












普段は客先で仕事をしている同期の一瀬いちせ真依まいが、16時過ぎに社に姿を現す。打ち合わせか何かで戻ってきたのだろう、と「お疲れ様です」とだけ須加柚羽ゆずはは声を掛けた。


「柚羽、帰りにご飯食べて帰らない?」


柚羽の元にやってきた真依にそう誘いを掛けられ、口元に手をやりながら悩む。


「先約がある?」


「先約というほどじゃないけど……」


真依にご飯じゃなくてもいいから少しだけ話をしたい、と言われて、流石に柚羽もそれには承諾する。


久々に会ったからご飯を食べようというものではなく、真依は明確に柚羽に何か話がある様子だった。


定時を少し過ぎた頃に真依は用事が終わったようで、再び柚羽の元に姿を現す。


「まだかかりそうなら、どこかで待っていようか?」


「今日はもう終わるから、ちょっとだけ待って。メール1本だけ送りたい」


「OK」


社内連絡用のボックスを見てくると真依は鞄を置いたまま去り、柚羽は書きかけのメールに視線を戻した。


メールを送信してから柚羽はPCをシャットダウンして帰り支度を始める。真依もすぐに戻ってきて、並んで会社を出た。


「このあたりでいい? どこかに移動する?」


「近くでいいよ。柚羽も用事あるんだよね」


最寄り駅近くのファーストフード店に入って、飲み物だけを頼んで2階のイートインスペースに移動する。


ビジネス街で帰宅時間帯ということもあってか2階のイートインスペースは人もまばらで、空いているテーブル席に向かい合って座った。


「柚羽、無理言ってごめんね」


「用事って程のものじゃないから、いいんだけど」


「早く帰りたい、だよね?」


真依の言葉に柚羽は表情を止める。


柚羽に恋人ができたのは1年ほど前のことで、2月前からは一緒に暮らし始めた。でも、柚羽はそのことを真依には伝えてはいない。


それなのに、真依の言葉はそれを知っているかのような口ぶりだったのだ。


「言いにくいのかな、って思っていたから聞かなかったけど、恋人ができたんだろうなって半年くらい前から思っていた。でも、言いにくくしているのは葵と私だよね」


葵は柚羽の姉の須加葵のことで、真依は葵の恋人で今は一緒に暮らしている。


「どこかでは話そうとは思っていたよ」


「うん。それは、柚羽が話してくれるまで待つよ。今日はそのことで時間が欲しいって言ったわけじゃないしね」


「何かやらかしたの?」


仕事のことであれば会社でも話せる。それをわざわざ別の場所にしたのは、真依の話をしたいことがプライベートに関わることだからだろう。となると、自然と姉の葵のことだと気づく。


「葵は柚羽には言わなくてもいいって言ってるし、何かをして欲しいってわけじゃないけど、遅かれ早かれ柚羽の耳には入ると思うから、知らせるだけ知らせておこうと思ったんだ。本当に聞くだけでいいからね」


その言葉に柚羽は頷きを返す。


今、柚羽は葵と真依のことにはできる限り関わらないようにしている。逆に昔ほど葵と真依も柚羽に声を掛けなくなったのは事実だった。


「葵が今年の末で今の会社を辞めるの。次はもう決まってるから、無職になることはなさそうだけどね」


「何かあったの?」


葵は同じシステム会社でも柚羽と真依が所属する会社に比べれば大きな、大企業と呼ばれる会社に所属している。その中でもプロジェクトマネージャとして大きなプロジェクトを成功させて、今は2期開発も無事終わったタイミングだった。

キリがいいと言えばキリがいいが、会社を辞めるような理由があるように柚羽には思えなかった。


「自分がやりたいと思っていることと、今の会社でやれることに相違があるから、自分が求める場所で働きたいって、ちょっと前から就職活動していたんだ」


「違う業界に行くとかじゃないよね?」


「SIerではないけど、システム開発をしていることには違いがないよ」


「そうなんだ。何か今の仕事が合っていそうだったから意外」


「そうだよね。でも、葵がやりたいことだって言うから反対はしなかったんだ」


「お姉ちゃんが今相談すべきなのは真依だし、真依が納得してるなら、わたしは何も言わないよ」


「有り難う、柚羽。客先に行ったら、話が出るかもしれないけど、詳しくは知らないでさらっと流しておいて」


今、真依の常駐先の担当営業が柚羽で、同じ場所に常駐していた葵と柚羽が姉妹であることは、客先の担当者も知っていることだった。


「分かった。お姉ちゃんはもう常駐してないの?」


「9末で常駐は終了で、そこからは必要に応じて行くになってる。辞めることはまだ正式にはお客さんにも言ってないみたいだけど、そのうち伝えるはず」


「プロジェクトも終了してだったら、お客さんとしても文句は言えないだろうしね」


「葵は前から考えてたみたい。でも、プロジェクトが終わるまで待ってたって言ってた」


「わたしにはあの人が何考えてるか分からないし、真依が悩んでなければいいよ」


「私は今の仕事に疑問なんて持ったことなかったから、びっくりはしたけどね。でも、この会社にはもういたくないって辞める人もいれば、違うことがしたいって辞める人もいるよね。葵に就職活動をしようと思ってるって言われた時に、そこに至るまでにきっと葛藤があったはずだから、私に何かできたことはあったんじゃないか、とは思ったけどね」


「自分のことは自分で決める人だから、そこまで真依が気にすることないんじゃないかな」


「うん」


「わたしはお姉ちゃんがやりたいことならやればいいと思うけど、もし真依のヒモになってるとか、なりそうとかだったら言って」


「うん。葵に雷を落とす柚羽って、ちょっと見てみたいかも」


「面倒くさいから、できればしたくないんだけど」


「ごめん、甘え過ぎだね。葵とは私が向き合うべきだし、柚羽は柚羽でそういう人がもういるんだから」


「いるとは言ってないよ?」


「でも、引っ越ししたんだよね? 借りてた部屋引き払ったってお義母さんに聞いたよ」


「一緒には住んでるし、一応将来のことも考えてはいるけど……」


真依が毎日顔を合わせている存在が、柚羽の恋人であることにはまだ気づいてもいないだろう。


「いつかお祝いさせて」


「考えとく」

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