第4話 いつもの夜

「何か、最近の葵は難しい顔をしていることが多いよね。新しい環境に慣れるの時間掛かりそう?」


夜、お風呂に入った後、ベッドで隣に並んで座る真依に言われて、ワタシは真依を見る。


確かにこの1月は慣れないことの連続だった。


今までSEとして仕事をしてきたけれど、こんなに違う場所もあるのだと思った部分はある。


「そこまでじゃないけど、緊張はなかなか解けないみたい。心配掛けてごめんね」


首を伸ばして真依の頬にキスをする。


「真依の方は仕事どう? 落ち着いてる?」


真依は今もワタシが長く常駐した客先にいる。


「リリース後のトラブルとかは落ち着いて、安定稼働には入ってるよ。要望は少しは出てるけど、予算見合いになりそう。それよりも今は、保守メンバーで誰を残そうかとか、そっちの方が問題」


真依はワタシと付き合い始める前から今の客先にいるので、もう6年くらいになるだろう。


会社の方針にも寄るけど、今後の案件に期待ができないのであれば、体制を縮小するのは常だ。


木崎きさきさんだっけ? あの人なら何でもできそうな感じだったけど、木崎さんを残すじゃ駄目なの?」


ワタシと同じか少し上くらいの女性は、直接関わったことはないけど、真依の手の回らない所をサポートしてくれるので助かっているとは聞いたことがあった。

確か一度真依の会社に作業場所は移ったけど、何かのトラブルがあった時に交代要員として戻ってきている。


「木崎さんは何でもできちゃう人だから引く手数多なんだよね。美人っていうのもあるかもしれないけど、社内のメンバーはぜひもう一度戻ってきて欲しいって言ってる」


その言葉に納得は行った。


一人で仕事を任せられる人って、いるようでいない。木崎さんは簡単に指示をすれば、必要な情報は自分で集めてくれて作業完了まで持っていってくれる人なんだろう。


「でも、真依が出るか出ないかもあるんでしょ?」


「そうなんだよね」


木崎さんはBPさんなので、一人で常駐というわけにはいかない。そうなると何らかの形で社員が関わらないと行けないけど、システムの規模からすると2人分の保守費をお客さんは払ってくれないだろう。


じゃあ、真依一人で残るかというと、戦略的には望ましくない。


「真依は出るのと出ないのとどっちがいいの?」


「葵もいないし、今後の展開も難しそうだから残る理由もないけど、私が決めることじゃないから」


可愛い真依の理由に、ワタシは真依を引き寄せて背後から抱き込む。


「淋しい?」


「同じ会社なわけじゃないし、期間限定だって分かっていたけど、急にいなくなるんだもん」


「それはごめんなさい。流石に真依を連れていくわけにもいかないしね」


「それは分かってます。私は葵のしてるような仕事はできないから」


拗ねる言葉が可愛くて首筋にキスを落とす。


「もうっ、くすぐったい」


「真依が可愛いんだもん。でも、どういう仕事をするかなんて、これからの真依次第じゃない? ワタシと同じ道を歩む必要はないけど、やりたいことがあるなら早めに転職もすべきなんだなって今回感じたしね」


「それは今の会社にもっと早くに入れば良かったってこと?」


「今の会社はワタシより若くてもっとできる人が一杯いるんだよね。今までSIでそれなりには仕事ができたつもりだったけど、仕事の仕方が違うとこんなに勝手が違うんだなって、毎日あたふたしてるから」


「それで難しい顔してるんだ」


「でも、家に帰ると真依がこうして話を聞いてくれるから嬉しいよ」


今まで以上に、帰ってきて真依の顔を見るのが楽しみだし、その度に真依の笑顔を見る為にワタシは働いているんだと感じるようになった。


「まあ私もSEだから、想像がつく部分もあるしね」


真依はそう言うけど、別の職種であっても真依はきっと気を配ってくれるだろう。


「ワタシがやりたいことをやれてるのは真依がいてくれるからだからね」


「大げさじゃない?」


「そんなことない。何があってもワタシは真依のところに戻ればいいんだって思えるのと思えないでのは大きく違うから」


「甘えん坊だよね。葵って」


「うん。甘やかして」


しょうがないなぁ、と笑う真依の正面側に体を回りこませて唇にキスをする。


「今日はいい?」


「しょうがないなぁ。平日なんだから、控えめにしてね」


「分かってる」


その日の真依はいつも以上に優しくて、積極的にワタシに触れてくれた。


ワタシは真依からの愛情を感じたくて真依に触れる。


おいで、と真依は両手を広げてワタシを迎えてくれる。


真依からすれば手が掛かって仕方がないだろうけど、そんな風にワタシを受け止めてくれる真依が何よりもワタシは大事だった。

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