第25話 久々の2人の時間
佳澄は新居に翌週末から入居できることになり、土曜日にいつものようにカーシェアで車を借りて、3人で必要最低限の日用品を買いこんで新居に運んだ。
更に言えば佳澄は週の半ばに弁護士に会って、離婚の相談を始めたらしい。その帰りに一人暮らし用の家電は買って、今日配達をしてくれることになっていると言うから手際の良さに舌を巻く。
佳澄の新居に荷物を運び終えて、後は佳澄が自分でやるというので、ワタシと真依は引き上げることにする。
佳澄は何だって自分でやろうと思えばできる存在だ。まだ少し心配な部分はあるけど、ワタシと真依にできることはここまでだろう。
「ありがとう、葵。真依さん。ちゃんとしたお礼は今度またさせてね」
「それは気にしないでください。葵と私がやりたくてやったことですから。ただ、しばらくは定期的にご飯に行ったりしませんか? 泊まりに来てくれてもいいですし、佳澄さんの近況でも、愚痴でも聞かせて欲しいです」
ワタシの心を拾うような言葉を投げてくれたのは真依だった。
真依は以前ほど佳澄には警戒心は抱いていない。それに、ワタシが佳澄をまだ手放しに放っておけないことも多分理解してくれている。
「ありがとう、真依さん。でも、葵はいなくてもいいんじゃない?」
「佳澄、あなたね」
「葵は佳澄さんに会社で会うし、そうかも」
「ワタシ、はみられてる?」
「葵を入れるとややこしくなるんだもん」
「何で!?」
納得ができなかったけど、真依と佳澄は笑っていて、ワタシの知らないところで2人は分かり合ったのだろう。
仕事以外のことは要領悪いって常日頃から真依には言われてるけど、ワタシは余計なことはするなってことだろうか。
「じゃあ、また会社で」
そう言って、ワタシと真依は佳澄の部屋を後にした。
佳澄の部屋を辞して、家に帰り着いたのは14時を過ぎた頃だった。夕ご飯の支度をするには、まだ少し早い。
「2人でずっと過ごしてきたのに不思議だね。佳澄さんがいないと、何でいないんだろうって喪失を感じちゃうね」
「存在感あるからね、佳澄は。でも、ありがとう、真依。佳澄のことを真依が手伝ってくれて、本当に助かった。内心面白くなかっただろうけど、佳澄が変なことにならなかったのは真依のお陰だよ」
「佳澄さんを憎いとか、そういう気持ちはないよ。今の葵と佳澄さんの関係は友人とか親友に近い関係だから、それなら私も手伝うことに意味があるかなって思っただけ」
真依の言葉に我慢ができなくて、ワタシは真依を引き寄せて抱き締める。
真依がしてくれたことは、簡単にできることじゃないってワタシなりに分かっているつもりだった。それでもしょうがないからって真依はそれにつきあってくれる。
「そういう真依が好き。バカなことばかりするワタシを真依はいつも助けてくれるよね」
「しょうがないじゃない。葵がしでかしちゃうんだから」
「ごめん。でも、絶対別れないって真依が言ってくれて、本当に嬉しかった。惚れ直したかな。ワタシは取り返しがつかないって気づく時が、いつも遅いんだよね」
「葵はもう2回しでかしてるからね」
胸の内の真依が溜息を吐きながら文句を言う。でも、その様すら可愛いくてキスしたいなんて言ったら怒られることは流石に分かった。
「分かってます。でも、真依と離れてなんて生きて行けないから、ワタシは」
「じゃあ、もうちょっと私だけを見ていて」
「うん」
真依が独占欲を見せてくれたことが嬉しくて、そのまま真依に顔を寄せてキスを奪う。
最近挨拶程度のキスしかできていなかったから、真依の唇に触れると体がもっと触れたいと強請ってしまう。
「真依をこのまま愛したいけど、ベッドに連れて行っていい?」
「葵はすぐそうなんだから」
「だって、2週間も我慢したんだよ」
お互いの体のコンディションでそのくらい間隔が空いてしまうことはある。
それでも今回の2週間は特に長く感じられた。
「自業自得でしょう?」
そう言いながらも真依は合意する素振りを見せてくれて、手を繋いで寝室に向かった。
久々だったこともあって、真依に触れると止まらなくなる。真依もそれに応えてくれて、夢中で求め合って、気づくと日はとっくに沈んでいた。
シャワーを浴びてから2人で料理をして、2人で食べて、そのままリビングで体をひっつけ合って微睡む。
2人でゆっくり過ごす時間には充足があって、繋いだ手から想いが流れて、流れ込んでくる。
真依は怒ってる時以外は、ワタシが触れると全部を預けてくれるから、それが溜まらなく心地がいい。
「いろいろあったし、近い内に泊まりで旅行に行かない? 全部忘れて真依とゆっくりしたい」
「どうしようかなぁ。葵は反省足りてない気がするしなぁ」
「…………反省してます。これからはちゃんと全部真依に報告します」
「ほんとに?」
「真依を裏切る気はなくても、ワタシはうっかりそれをしちゃう。でも、ワタシのことをこんなに見ていてくれている真依をこれ以上裏切ったら、ワタシは生きる価値すらないバカだなって分かったから」
「なかなかのバカなんだけど、既に」
「…………分かってマス」
溜息を吐いて、真依が体を寄せてくる。それで怒っているわけでないことは分かった。
「私、嫉妬深かったんだなって、思った」
「それ、ワタシ的にはすごく嬉しいんだけど」
「葵ってもっと大人だと思っていたのに、何でこんなに手間が掛かるの」
「もう返品はきかないから、面倒見て?」
しょうがないなぁと口元を緩めた真依の唇に自らのそれを重ねる。
「もう一回しよう?」
誘いを掛けたワタシの耳にインターフォン音が聞こえた。
もう22時近くて宅配が来る時間でもない。
「まさかまた佳澄!?」
「流石にそれはないんじゃない?」
真依にそう言われながらも、インターフォンのモニターを見るためにワタシは渋々立ち上がった。
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