姉二十五歳、弟二十三歳

敬史が刑務所に収監されてから恵美子は仕事を探し始めた。元バスケット選手、それも世界に出て行くことが出来る才能を持った選手が起こした、あまりにも凡庸な事件。その対比を面白がった三流マスコミがある事ない事をむやみやたらに報道したお陰で、事件に関係の無い恵美子にまで影響が及んでいた。付き合っていた男は静かに消えて行き、勤めていたスーパーとラーメン屋はどちらも首になった。地元では何処に行っても事件のことが知れ渡っており、採用してくれる奇特な勤め先は皆無だった。仕方なく隣町まで出かけていき、ようやっとスーパーのパートとして採用してもらうことが出来た。


恵美子は職場では寡黙に働き、休みの日は何をするでもなく、淡々と時間を費やすだけの日々を過ごしていた。一方、刑に服した敬史も、刑務所内ではトラブルを起こすでもなく、淡々と日々を過ごしていた。


瞬く間に時は流れ、刑期を終えて敬史が恵美子のところに戻って来た。片脚を引きずりながら家に入る弟を見て、弟の将来を心配する姉。自分の意に沿わない脚を持て余し、どこまで姉に迷惑を掛けてしまうのか悩む弟。お互いの優しさが仇になり、再び始まった姉弟の生活は、笑いの少ない、息詰まるものだった。


実家に戻ってからしばらくは外出することも無く家に閉じこもっていた敬史。黙々と、愚痴もこぼさずに働く姉の姿を見るのが段々とつらくなってくる。自分も働こうと街に出て行くものの、あまりに敬史は目立ち過ぎた。二年の歳月は人々の記憶から事件の事を忘れさせていたが、脚を引きずり歩く大男の風貌は、一瞬にして事件を思い出させてしまう。結局、地元では職につくことも出来ず、追われるようにして恵美子の前からいなくなることを選択した。その夜、恵美子は敬史が家を出た事を知り、静かに涙を流した。そして、自分たちの生き様を儚みつつも、一方では安堵している自分がいることに気付き、大きな嫌悪を感じた。


刑を終えてから最初の冬、姉弟は別々の地で互いの心配をしながら迎えることになった。

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