音の連鎖
寅蔵
姉六歳、弟四歳
【プロローグ 育児放棄】
小さな男の子が部屋の中でひとり泣いている。お腹が空いているのか、しきりに右手の親指をしゃぶるように舐めている。梅雨の中休み、部屋の中に差し込む日差しが夏が近い事を告げている、そんな日の夕暮れ時だった。
そこへひとりの女の子が帰ってきた。手には誰かに持たされたのか、コンビニの袋を大事そうに抱えていた。
「敬史、お母さんがおにぎり買ってくれたから、これ一緒に食べよう。」
「わーい、おにぎり、おにぎり、やったぁ。」
幼い姉弟は母親が買ってくれたコンビニのおにぎりを、むしゃぶりつく様に、あちこちにご飯粒をつけながら食べ始めた。まるで、このおにぎりを食べないと短い命の灯火が消えてしまうかのように。
三日後、いつまでも聞こえてくる子供の泣き声に辟易とした隣人が部屋のドアを開けてみると、そこには痩せ細った、幼い女の子と男の子の四つの目があった。その目はまるで、飢えた狼のようで、今にもこちらに飛び掛ってくるような気にさせる目だった。子供たちの周りにはおにぎりやお菓子の空き袋が散乱し、部屋の中にはすえたような異臭が充満していた。
警察から連絡を受けた養護施設の担当者がかけつけると、菓子パンを必死で食べる幼い姉弟の姿があった。
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