姉九歳、弟七歳

麗が亡くなってから恵美子に対するいじめはなくなった。敬史はその事を喜んでいるようだったが、真実を唯一知ってしまった恵美子は、誰にも相談出来ず、一人でいることが多くなった。


そして半年程が過ぎた頃、小学校から帰ってきた恵美子と敬史は施設の責任者である田尻に呼ばれた。二人が田尻に呼ばれることは滅多にないため、何事かと思い出向いてみると、そこには見知らぬ痩せたお婆さんがいた。

「恵美子ちゃん、敬史君、こちらはあなた達のお母さんのお母さん、つまり、あなた達のお祖母さんよ。」


田尻の話によると、恵美子たちの母は、離婚した頃から祖母との連絡を絶ち、どこで暮らしているかも教えていなかったらしい。祖母は母のこともそうだが、恵美子たち二人の孫のことが気にかかり、母の行方をずっと捜していたという。そして、先日、ようやっと失踪した時に住んでいたアパートを見つけ、そこでこの養護施設のことがわかったらしい。祖母としては、二人の孫を引き取り一緒に住む事を望んでいるそうで、田尻は恵美子たち二人に、

「よかったわね、これからはお祖母様と一緒に暮らせるのよ。」

と言って、二人の顔を覗き込むようにして二人の表情を伺っていた。


敬史は話を理解できたのかどうか不明だが、恵美子としては例の件があったこの施設から離れられることがありがたかった。


初めて祖母が施設を訪ねてから三週間後の土曜日、恵美子と敬史は、子供たちの羨ましそうな視線に送られ施設を後にした。祖母の家は埼玉県の外れにある小さな街の中にひっそりと佇んでいた。後でわかったことだが、祖父は十年以上も前に他界しており、それ以降は祖母がひとりで細々と暮らしていたらしい。恵美子が生まれてから両親が離婚するまで四年ほどだったが、その間に一度だけ訪れたことがあるということも聞いた。しかし、残念ながら恵美子にはその時の記憶は残っていなかった。

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