第16話 開店は1年後!
父さんは楽しそうに笑う。
「ケヴィンも夢中になるなんて」
父さんの向かいのソファーで、兄さんと姉さんは恥ずかしそうに体を丸くしている。
兄さんの手には、猫のぬいぐるみ。ぬいぐるみの感触を楽しむようになで続けている。
父さんと、その隣に座る母さんは、兄さんと姉さんの様子に頬を緩ませている。
「まさか、クレーンゲーム?も出せるなんて、ジャンのスキルはすごいわね」
母さんは、品定めするように、兄さんが持つぬいぐるみに目を向ける。
「生地もいいし、こんな形の人形なんて見たことないわ」
「それに、商人に高く売れそうだね」
母さんの言葉に父さんが頷く。
「母さん、これはぬいぐるみというものだ。人形とは違う。あと、これは景品であって、単体で売るのは違う。ゲームで勝ち取ってこそ価値が出るんだ」
すかさず兄さんが訂正した。口調こそ静かだが、その言葉から高い熱量がうかがえる。
父さんと母さんも思わず、ああ、と生返事する。
景品だけど、ぬいぐるみ単体で売ってもいいと思うけど……。
「ケヴィンの言うとおり……人を呼び込むためのものだから、景品だけ売るのは違うね」
「そうだよ。父さんが言っていたことがわかった。ゲームを遊べる店を作れば、我が領に人が来る。絶対に」
兄さんの手の中で猫のぬいぐるみがぐにゃりと潰れる。
「ああ、ごめんねティナ……はっ!」
咳払いした兄さんはすまし顔で居住まいを正す。
「あら、お兄様、さっそく名前を、ぷっ」
笑っちゃかわいそうだよ姉さん……。俺や父さん、母さんは見ないふりしているのに。
ああ、兄さんの顔が真っ赤っかに……。
父さんが咳払いをして、露骨に話題を変える。
「これならお店をやっても人が来るね」
「父さんが言っていたゲームセンターというものですよね、ティナの……ジャンのスキルのこれらを使った」
どう言い間違えたのかわからないけど、兄さんは動揺することなく話を続けた。俺もそこには触れない。お可哀想だから。
「教会で言われた。ゲームセンターでこの街に人を呼ぶつもり」
「店ってことは、このゲームを何台も出すんですよね。それなら広めの建物が必要ですよね。そんな建物あったっけな」
頭の中では、どこに店を出すのか考えているんだろう。兄さんもこのゲームなら人が来ると思ってくれているってことかな。
「これから建てるんだ」
父さんが続ける。
「空き家を潰して、ゲームセンターを作る。大体1年後ぐらいには開店する予定だ。ジャンにはそれまでにスキルのことを調べておいてほしい。どういうゲームが出せるのか、新しいゲームを覚える? というか出せるようになるのかだな」
「こういうスキルって出せるもの増えるの?」
レベルが上がるってことなのかな。レベル上げってことは、魔物を倒さなきゃいけないの?
「ほかのスキルだと、使えば使うほど、できることが増える。昔、ゴーレムを召喚するスキルがあったらしいが、使うことで召喚できる数が増えたらしい」
この場合は、ゲームをやり続ける必要があるのか?
「あら、それじゃゲームをやり続ける必要があるわね。それは私に任せてちょうだい」
「領主補佐として僕もやろう。これも仕事だ」
すかさず姉さんと兄さんが立候補する。二人ともすました態度をしているが、顔はだらしなく緩くなっている。
ゲームがやりたいんだな。
母さんは生暖かい目線を2人に向けている。兄さんたちの魂胆には気づいているみたいだな。
まあ、2人がドンドンやってくれるなら安心だな。俺ひとりでゲームをやり続けるのは……正直つらいからな。街のためにゲームセンターをやるのが嫌ってことじゃない。
ゲームは前世で嫌になるほど身近にあったから、ゲームセンターをやるにしても、ゲームにつきっきりになるのは避けたいだけだ。
「姉さんと兄さんが手伝ってくれるなら俺も助かるよ」
その言葉に、兄さんたちは満足そうに頷く。うん、正しい対応だったようだ。
その後、1年後の開店に向けてやることをまとめていると、いきなりドアが開く。入ってきたのはヴィヴィだ。
いくらヴィヴィでも、こういうときはノックはするはずだが……。
って、ヴィヴィは顔面蒼白だ!? 一体なにがあったの?
ただならぬ気配を感じる。
「どうしたんだ、ヴィヴィ」
父さんも俺と同じように思ったのか、ヴィヴィの態度には触れないで用件を聞く。
「は、反乱です! 街の人たちが、たいまつを持って大勢こっちにやってきました。きっと私たちを燃やしに来たんです!」
ヴィヴィの言葉に緊張が走る。
え? この街でクーデターとか起きるの?
外に出ると、門の前に、20人程度の人たちが群がっていた。
あ、リディーだ。
最前列にいるリディーは、門を掴んで前後に揺らしていた。ガチャガチャと門から大きな音が鳴る。
前世で動物園に行ったとき、あんな猿いたなあ、と目の前の現実から目をそらす。
「ジャンが出てきたよ!」
リディーが大声でわめくと、うおおぉお、と周りの人たちが声を上げる。よくよく見ると、リディーの横にはアシルとアルマンがいる。アシルとアルマンは、リディーの姿にドン引きしていた。
「ジャン! こっちに来なさい! 来なさい!」
そんなこと言われても行く人はいないと思う。
リディーはヒートアップしていく。
「来なさいって言ってるでしょ! 来い! ジャン」
鬼の形相で叫ぶリディー。
彼女の姿に、アシルとアルマンは少し距離を取っている。
ドン引きしているのは、俺の家族も同じだ。父さんと母さんは、どうしたものか、と困っている。姉さんと兄さんは、さりげなく俺の後ろへと回り込む。ちなみにヴィヴィは、俺たちを送り出してからずっと、扉から顔だけだしてこちらをうかがっている。
ちょ兄さん、俺の背中を押さないで。
抗議の目を向けると、兄さんは「お前が原因だろ」と言わんばかりの目でにらみ返される。
誰もがどう動けばいいのか迷っていると、父さんが咳払いする。
「あー話を聞くから、代表の者は?」
さすが父さん! 尊敬できる!
「私! 私が話す!」
リディーが手を上げる。
「いれリディー、ここは僕が話しますよ」
神父のフランクさんが前に出る。
「ジャンには私が言ったほうが早いよ!」
リディーはブンブンと腕を振る。
言ったほうがって、殴るつもりなのか?
「暴力ではなにも解決できません。僕たちはただ、ゲームのお金を返してもらえないか話に来たのですから」
え? お金?
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