第6話 授かったスキルは「ゲーセン」
街唯一の教会は小さい。小さな教会でありながらも、内部は神聖は雰囲気で満ちている。何列にも並ぶ木製の椅子は、集まっていた人たちですべてが埋まっている。その最前列には、俺やリディーたちの家族が座っている。
祭壇には、神父のフランクがいた。祝福の日のために、普段は見たこともない豪奢な神父服を着ている。
フランクの前に立つのは、俺とリディー、そしてアシルとアルマンだ。三人とも、背筋をピンと伸ばして、体がカチコチに固まっている。
俺も、この雰囲気に飲まれている。
フランクがなにやら挨拶らしきことを言っているようだが、緊張のあまり耳に入ってこない。
まさかこんなにドキドキするなんて……。
なんのスキルでもいいと思っていた俺だが、いざ祝福の儀式がはじまると、緊張で吐きそうになる。そういえば……音楽のときにみんなの前で歌うときもこんな感じだったな。
心細さから思わず後ろを見る。父さんたちは両手を組んで、堅く目を閉じている。真剣に祈る姿に、フッと肩から力が抜ける。
みんな緊張しているんだ。
フランクの挨拶が終わり、ここからが本番だ。彼は小さな鈴を手に持つと、厳かなに言う。
「神の名のもとに、汝らを神の子として迎え入れる」
鈴の音。決して大きくない音が、教会中に広がる。
そのとき、頭の中に声が聞こえる。女とも男とも取れる不思議な声だ。
『汝に授けるスキルは……ゲーセン』
……は? なんて? ゲーセン、ゲーセン! あのゲーセン?
鈴の音が、空気に溶けるように消えた。
「祝福はなされた」
フランクの言葉に、歓声が上がる。拍手で教会が満たされる。
リディーの悲鳴が上がる。
「なんで! なんで私が騎士なの!?」
騎士は剣だけじゃなくてあらゆる武器が使えるスキルだったはず。いわゆる剣士スキルの上位互換。
すごいなぁ……料理じゃないけど、いいスキルだ。
「リディーが騎士! 俺、細工スキルなんだけど! 冒険者できないよ!」
アシルは頭を抱える。
「俺、料理スキル……魔物なんて倒せない……」
アルマンも肩を落とす。だが、彼の言葉にリディーが目を鋭くさせる。
「アルマン! スキル交換しなさいよ」
「で、できないよ……」
リディーはアルマンの胸倉をつかんで揺らす。
荒れるリディー、頭を抱えるアシル、揺られ過ぎて顔色が悪くなるアルマン、そして、呆然としている俺。
そんな様子に、フランクは困惑して声をかけられない。
「みんな、フランクさんを困らせちゃダメよ」
静かだがよく通る声がした。姉さんだ。にこりと上品に笑う姉さんに、リディーはばつが悪そうな顔で手を放す。
「そうですよ。このあと、みなさんにスキルを発表してもらう予定だったのですが、思わぬかたちで三人のスキルを知ってしまうとは」
フランクは、リディーたちをからかうように笑みを浮かべる。それにつられて、参加者たちの空気も明るくなる。
「すみません」
謝ったリディーの顔は、恥ずかしさで赤くなっている。
「いいのですよ。でも、これだけは忘れないでください。どんなスキルでも、それは神があなたたちを思って授けたものです」
はい、と正気に戻ったリディーたち三人は頷く。
そんな三人の横で、俺は叫びたい衝動をどうにか抑えている。いますぐに、どういうこと神様! と聞きたい。
「あ、ジャンはなんのスキルなんだ」
アルマンの言葉に、みんなが、ああ、と思い出したように声を上げる。
「ジャン、教えてくれますか?」
「俺のスキルは……」
いや、ゲーセンって言って通じるのか? そもそもこれってどんなスキルなんだ。ゲーセンって、俺が思っているゲームセンターのことなのか?
「ジャン、もったいぶってないで早くいいなさいよ」
「そうだよ。なんのスキルだよ」
リディーとアシルが、早く言えと催促する。
もしかしたら、この世界特有のなにかって可能性もあるもんな。ゲーセンが。
「俺のスキルは、ゲーセンです」
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