第7話 これがゲームです

 フランクさんもリディーたちも、みんな首をかしげる。


「なにそれ?」


 リディーは眉を寄せる。どんなスキルなのか想像もできないんだろう。


「フランクさん、どういうスキルなの?」


 リディーが言う。フランクさんもわからないのか、困ったように頭をかく。


「ゲーセン、ですか? ええっと、はじめて聞きましたが……誰か知っている人は?」


 それ、俺も知りたいです。


 父さんたちも参加者も、誰もなにも言わない。


「ジャン、スキルに聞いてみろ」


 父さんの言葉に、?マークが浮かぶ。


 スキルに聞いてみるってどうやって?


 フランクさんがアドバイスをくれる。


「スキルに意識を向けてごらんなさい。そうすれば、スキルが教えてくれます」


 え!? スキルってそんなこともできるの!


 俺は、ゲーセン、ゲーセン、と心の中で強く意識する。


 と、目の前に文字が現れた。それは空中に投影されていて、文字は少し透けている。


「!」


 なにこれ……映画みたい。神様すごい!


「出たようですね。それはジャン君だけにしか見えない、神によるスキルの標です」


「みんな見えてないの?」


 リディーたちを見ると、3人そろって首を横に振る。


「ねえ、どんなスキルなの?」


 リディーに急かされる。 


 俺は文字を見る。


▲▼▲▼

【召喚可能ゲーム】


・レッドーオーシャン


・クレーンゲーム

→ぬいぐるみ

▲▼▲▼



 って、レッドオーシャン!? クレーンゲーム! これまんまゲーセンじゃん!


 レッドオーシャンは格ゲーだ。スタイリッシュなキャラクターたちがド派手にバトル! が売り文句。eスポーツ大会でも選ばれる世界中で大人気のゲームだ。


「でもなんでレッドオーシャンが……」


「なにそれ? それがスキルで使えるの?」


 俺の呟きがリディーにも聞こえていたらしい。アシルとアルマンも好奇心を抑えられない様子で、目を輝かせている。



 集まっている街のみんなも、興味深そうに俺を見ている。


 みんなの圧がすごい……。


「スキルで使えるっていうか、ゲームを召喚できる」


「召喚ですか。なにかを召喚するスキルは、とても珍しいですね。有名なのは、モンスターを召

喚して使役する、サモンスキルでしょうか」


 フランクさんが語る。そうなんだー。


「だが、ジャンのはモンスターって訳じゃないようだね。ゲームか……ゲームっていうと、軍部の連中が遊んでいるコマ遊びか?」


「あなたは苦手ですよね」


 母さんに突っ込まれて、父さんは、ははは、と苦笑する。


 父さんが言っているのは、この世界の将棋みたいなものだ。飛車や桂馬ではなく、騎士や魔法兵なんかと書かれている。


「ちが……違うみたいです」


 違うって即答しようとして、慌てて言い直す。いまの俺が、レッドオーシャンを知っているのはおかしいな。


「なるほど、スキルがそう言っているんだな」


 父さんは、うんうん、と頷く。わかっています、といわんばかりのしたり顔だ。


 なるほど。なんでもスキルのせいにすれば、いいのか。


「これはゲーム機です。レッドオーシャンは、格闘ゲーム、らしい」


「うーむ、いまいちわからないな。それは危険なものか?」


「全然」


「なら、ここで使ってみてくれ。フランクさんもかまわないか?」


 父さんの言葉に、フランクさんは、どうぞ、と言う。


「ここでいいですね。一応、ジャン君以外は祭壇から降りましょう」


 フランクさんたちは台を降りる。


 そうすると、みんなの視線が俺に集まる。


 う、緊張が……とっととやってみよう。と言っても、スキルってどうやって使うんだ。


 そのとき、スキルの使い方が頭に浮かんだ。


 便利だな、スキル。


「レッドオーシャン召喚」


 地面に円が現れる。直線や三角、四角の線が複雑に絡み合うそれは、魔方陣みたいだった。それがかすかに発光する。


 おお~、と観客から声が上がる。


 光を放つ魔方陣が輝きを強くすると、突如、魔方陣の上にゲームの筐体が現れる。


 光沢のある素材とディスプレイ。この世界では見たことのない、前世の記憶にあったもの。ディスプレイにはアニメ調のPVが流れている。スタイリッシュなデザインのキャラクターたちが縦横無尽に動き回り、迫力のある技を決めている。


 高さは俺の背と同じぐらい。ディスプレイの下には、前世で見慣れたコントローラーパネルがある。これは一人用だ。


 さらに、椅子まである。背もたれがなく、クッション性皆無の椅子だ。


 この世界にはない筐体に、観客の感嘆の声をあげる。その声音には、未知のものへの好奇心と警戒心がにじみ出ている。


 次々に変わる絵にスピーカーから流れるBGMサウンドに、周囲の目が引きつけられる。


「これは……なんでしょうか?」


 フランクさんの目は筐体にしかいっていない。


「これがゲームです」

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