第8話  異世界初のゲームプレイ

 俺はゲームのやり方を説明した。


「なるほど……こんなものははじめてみました。ご領主様は?」


「僕だってはじめてだよ。やるにはお金が必要なんだよね。お金を出すから、やってみてくれないかな」


 父さんが俺を見る。


 やってみてもいいけど、あまり気乗りしないな。正直、あまりゲームは好きじゃない。家がゲーセンで毎日見ていると、好きになるのが難しいでしょ?


「あの! 私がやってみてもいいですか!」


 俺が渋っていると、リディーが手を上げる。体全体からやってみたい、というオーラが出ている。興奮からか、彼女の顔は赤くなっている。


「リディー、あまりやらないほうがいいかもよ」


「そうだよ。こんなの見たこともない」


 アシルとアルマンが言うが、リディーは聞こえてないかのように無反応だ。彼女は目をキラキラさせながら、父さんを見ている。


「リディーちゃんにやってもらおうか。いいよな」


 父さんに聞かれたので、いいよ、と答える。


「やった!」


 リディーは飛び跳ねて喜ぶ。リディーの両親も、よかったね、と娘を祝福している。


 さっそく椅子に座ると、恐る恐る筐体を触る。レバーがグルングルンと動くことに驚き、人差し指で慎重にボタンを押す。そして、困惑した表情を浮かべて、俺を見る。


「で? どうするの?」


 一通りゲームの遊び方を教えると、さっそくリディーは、父さんから受け取った銅貨を入れる。銅貨は、日本円で100円程度。


 まあ妥当な値段なのかな? というか、なんでスキルなのに金取るんだよこれ……。変なスキルになっちゃったな。


 俺の中で、スキルへの不満が膨らんでいく。俺の気持ちとは裏腹に、リディーはゲームへに釘付けだ。


 大きな音が鳴り、筐体の画面が切り替わる。その派手な演出とエフェクトで移り変わる画面に、リディーは、おお、すごい、なにこれ格好いい、と楽しそうにつぶやく。


「この中から人を選ぶのね……あ、女の子いる。この子かわいい!」


 十体のキャラクターの中から、武道家のマリーを選んだ。癖が少なく、初心者でも使いやすいキャラだ。




 彼女だけではなく、父さんも母さんも姉さんも……教会にいるみんながゲームを見ている。


 なんだか、みんなが近づいているような。


 画面を見ようと体を伸ばし、少しでもいい位置で見ようと、こちらに徐々に進んでくる。無言の行進に、俺は思わず後ずさりする。


 こわっ!


 アシルたちやフランクさんは気づいていない。むしろ、じりじりとリディーに近づいている。


 ファイ!


 ゲームがはじまる。対戦相手はNPC。キャラは、日本の格闘家という設定のサトシだ。


「あ、動かせるようになった。おお、殴った。あれ? 私ってこっちよね。殴られた。え! なんか魔法撃ってきたんだけど。ええ、当たった!」


 リディーは、レバーとボタンをがむしゃらに操作する。


 ちなみに、サトシが撃ったのは、魔法じゃなくて気功波だ。かめ○め波みたいなものだ。


 初戦だから、サトシは弱い。技を出す頻度は少なく、ほとんどがパンチやキックばかりだ。


 そのため、ガチャガチャプレイでも相手できる。


「リディー避けろ」


「なんでいま蹴ったんだよ。殴れよ殴れよ」


「あ、リディーさんのもなにか撃ちましたよ」


 アシルやアルマン、フランクさんが声援を送る。三人とも、リディーが操作するマリーの動きに一喜一憂している。


 YouWin、と画面にでかでかと映し出される。マリーが回し蹴りをして、決めポーズ。


「……勝った、の」


 リディーが破顔し、わーい、と両手をあげる。


「すげー!」


「やったな」


 アシルとアルマンが、リディーお背中をバンバンと叩く。


 勝利して興奮しているためか、なかなか強めに叩いているが、リディーも気になってないようだ。


「これ最高ね」


 リディーが駆け寄ってくると、ガバッと俺に抱きつく。


 数歩よろめくが、どうにか彼女を受け止める。


 リディーの笑顔に、思わずドキッとする。


 かわいい……。ハッ! ダメダメだ。相手は子供。いや俺も子供だけど、前世も含めればアラサーだ。


 彼女は、バンバンと背中を叩くと、彼女の両親に抱きつく。両親も楽しそうな娘を受け止める。


 葛藤する俺とは裏腹に、彼女はまったく気にしていないようだった。


 まあ、そんなもんだよな。


 アシルの緊迫した声が聞こえる。


「リディー! これ、動いてる。殴られてるぞ!」


「ええ! 本当だ! これまだ続いているんだ!」


 そういえば、そこら辺まで説明してなかったな。レッドオーシャンは、勝ったらプレイし続けられる。


 わたわたと筐体に座ったリディーは、ガチャガチャと操作する。


 だが……。


 YouLoss


「あー、負けちゃった。……あれ? もうできないの? ちょっとジャンどういうこと」


 今度は眉をつり上げたリディーに、胸ぐらを掴まれた。


 説明するから、怒らないでください。

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