第9話 作りたいゲーセン
改めて、ゲームのやり方を一通り説明した。その際、技のコマンドに触れると、リディーから「もう隠していることない?」と詰められた。
覚えている限りのコマンドを、それも全キャラの!を伝える。前世がゲームセンターだから、家にあるゲームは説明できる。
そのあとは、とにかくゲームの時間だ。入れ替わり立ち替わりで、ゲームをする。
いつのまにかフランクさんがメモしていたコマンド表が、筐体の横に置かれた。フランクさんは、みんなから賞賛を浴びた。
俺はみんなから少し離れたところで、ゲームをしている様子を見ている。いまは姉さんがプレイしている。
「ちっ! あ、くそ! いま避けたのに! ああもうこいつら鈍くさ!」
と清楚で可憐な見た目からは考えられないほど口が悪くなった姉さんに、周りの人たちが退いていた。何人かの男性は涙を流しており、周りから慰められている。
父さんと母さんも、姉さんの豹変に驚いている。それ、娘に向けていい目じゃないよ……。
いるよな、ゲームで豹変する奴……。前世でもいたな……。
叩かれる台……周りの客からの苦情……ううぅ、頭が……。
そんな人たちも、注意したら素直に謝ってくれたっけ。まあ、例外はあるけど。
「これはすごいな」
父さんが隣に座る。
「うん本当にすごい……」
同意しかない。まさかこんなことになるなんて。いつまで遊んでいるんだろう。
父さんは手を組んで、親指をトントンとする。
これは、考えごとをしているときの父さんの癖だ。姉さんが食っちゃ寝しすぎて肥えていったときに、注意したときと同じだ。
大事な話があるのかな、と直感した。
父さんと目が合う。目がまっすぐに俺を見ている。周りの空間から切り離されたように、静かな空気が漂っている。
「このゲームで、お店を開いてくれないかな」
すぐには言葉が飲み込めなかった。
「……お店、を?」
お店って……ゲームセンターだよね。でも、ここにはゲーセンはないはずだけど。
「なんでお店をやるの?」
「そうだな……」
父さんはなにかを思い出すように、遠くのほうを見る。
「僕の祝福の日では、僕以外にも十人の子が一緒に受けたんだよ。大人たちもいっぱいいてね。教会に入りきらないから、入り口前に人だかりができていたんだ」
そんなに!?
俺が驚いているのに気づいたのか、父さんは笑顔を浮かべる。
「通りには屋台もたくさん出て、祝福の日はお祭りみたいだったんだ。でも、段々と子供が少なくなって、屋台もなくなって……」
今日もいっぱい人がいると思ってたけどなぁ。
「このままだと、ゴーンラプはいずれ祝福の日がない年が出てくると思う」
少子化。と前世で度々問題になっていたことが思い浮かんだ。
「僕は、祝福の日を毎年、これからずっとやりたいと思っているんだ。そのためには、ゴーンラプに住む人を増やさないといけない」
そこまで言われて、俺に店をやらせようとする意図がわかった。でも……そんなに上手くいくとは思えなかった。
正直に言うと、ゲーセンなんてやりたくなかった。前世で、あれだけ大変だったことを、いまやりたいとは思えない。
日本ではゲームセンターの数は減っていったし、家のゲーセンに来る客もそんなに多くない。
ゲーセンがあるからそこに住む、と決める人がいても、少ないだろう。
「でも、ゲームだけで人が来るのかな?」
疑わしげに僕が言うと、父さんはわずかに目を見張る。
「来るよ」
父さんは断言する。その声音から、強い、絶対的な意思を感じる。
「みんな夢中だろ」
前に目を向ける父さんにつられて、俺も前を向く。
「あ」
ゲームに夢中になっている人たち。笑顔で、悔しそうに、真剣に、ゲームを楽しむ顔。
ふと、前世で小学生の頃を思い出した。あの頃は、実家がゲーセンっていうのが自慢だった。友達を誘って、いや誘わなくて、放課後を決まってうちの店で遊んだ。そのときの友達の顔が、いま目の前にいるみんなと重なる。
「だから、やってくれるか?」
父さんが言う。
実家のゲーセンが自慢だった時期は短い。残りは、ゲーセンであることが嫌なときのほうが長い。
「うん」
自然と言葉が出た。前世のゲーセンを、この世界に作りたくなった。来る人たちが楽しそうにゲームをする、そんなゲーセンを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます