第10話 姉さんが心配です……

 俺たちは自宅である屋敷に戻ってきた。領主一家だけあって、ほかの家よりも3倍は大きい。庭も広い。塀の外も一面野原だ。なぜか、この屋敷は街から少し離れた場所に建てられている。有事の際は、兵士が集い、領民たちの避難所としても使えるように、らしい。


 俺はソファーに座っている。隣の姉さんは、むすっとした顔で俺をにらんでいる。


「ゲーム……」


 小さな声でつぶやく。不満どころか恨みがこもったような声だ。


 教会ではゲームが止まることなく、代わる代わる多くの人がプレイしていた。1時間経っても、2時間経っても終わらなかったため、俺たちは一足先に帰らせてもらった。


 兄さんにも報告しないといけないからね。


 ただ、そのときに一悶着があった。




「待って! 待って! ジャンが帰ったらゲームは! 私のマリーは!」


「お前がいなくなったら、これ消えちゃうの! どうなの!」


「そんなのダメだよ! なあジャン、お前もう帰らなくていいよな」


 マリーとアシル、アルマンが抗議の声を上げる。とくにアルマン、ずっと教会にいられる訳ないだろうが。


 ほかのみんなも、ゲームを手放したくないのか、マリーたちと同じ気持ちのようだ。ある人は出入り口に横にいき、またある人は俺たちにじりじりと近づいてくる。逃がさないつもりのようだ!


「だ、大丈夫ですよ。スキルで出したものは、使用者が消そうとしなければ、残り続けます」


 街のみんなの様子に焦ったのか、父さんが慌てて説明する。


「ねえジャン。ジャンはこれ消す気、ないよね」


 マリーが俺に聞く。彼女は笑顔だが、ちょっと目が決まっていて怖い。


 それほどはまったのか。異世界だと、こんなに中毒性があるとは……まあ娯楽って少ないもんなぁ。


「ないよね!」


「はいありません」


 言い知れない圧力をにじませるマリーに、俺はすぐさま返事をする。


 すると、マリーだけじゃなくて、みんなが笑顔を見せてくれた。目も笑っている。


 そうして、俺たちは教会から帰ることに成功した。




「私、まだ帰りたくなかったなぁ……」


「いつまで言ってんのアニエス」


「母さんもわかるでしょ。あれの面白さが。私がボタンを押したりレバーを動かすと、すぐさまライドウさんが動くのよ。……無駄な肉のない引き締まった体……聞いただけで心を震わす声音。そんな彼が、相手をボコボコにするの……はぁ」


 姉さんは頬に手を当てて、恍惚の表情を浮かべる。


 帰りたくないのは、推しと別れたくないからか。それとも、相手を屈服させる強力な力に酔いしれているのか。


 姉さんの将来が心配です……。

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