過疎化を食い止めろ! 鍵はゲーセン!?

第3話 異世界転生のその前

「閉館の時間ですので、退出してください」


 図書館の職員に言われて、館内に蛍の光が流れているのに気づいた。


 職員に軽く頭を下げて、勉強道具を片付ける。四隅がボロボロになった参考書とノート、シャーペンと消しゴミが入った筆入れをスクールバッグに入れて、消しかすは一カ所に集める。


 図書館を出ると、日は落ちて暗くなっていた。俺は最寄り駅に向かう。


 図書館から自宅まで電車で2駅。わざわざ通っているのは、学習スペースがあり、学校の定期券で通える図書館がここのみだからだ。


 高校3年の5月。受験に向けて、徐々に火がついていく頃だ。俺はバイトがある日以外は図書館に通っている。


 俺には行きたい大学がある。いや、行ける大学が、そこしかない。自宅から通えて、奨学金制度が整っている大学。


 両親の助けは借りることはできない。うちに金がないのは、息子である俺がよく知っている。


 駅前に着く。ふと、横から大きな音がする。


 ゲームセンターの音だ。開いたドアから、数人の高校生が出てくる。


 ビル一棟すべてがゲームセンターだ。


 うちとは比べものにならない大手の会社のお店だ。


 こんな店が実家なら、大学も選び放題なんだろうな……。


 人で賑わっているゲームセンターを見るといつもそう思う。そうして少しずつ、家に帰る足が重くなっていく。


 後ろから話し声が聞こえる。ちらりと見ると、ゲーセンから出てきた高校生がすぐ近くにいた。


 道を譲る。足がもつれて、体が傾く。あっ、と足を出そうとしたとき、頭の横に鈍い衝撃が走る。


 地面に倒れる。高校生が、驚いた顔でこちらを見ている。


「大丈夫ですか?」


 高校生の声が遠い。立ち上がろうと手足に力を込める。だが、手足は動いてくれない。目が回る。頭が痛い。


 ガードレールが見えた。一カ所だけ、赤くなっている箇所があった。


 死ぬの……。


 意識を失った。

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