異世界ゲームセンターは今日も大繁盛

桜田

プロローグ 異世界初の格闘ゲーム大会決勝!

第1話 プロローグ1

 ゼロイスト王国にある地方の街・ゴーンラプ。魔物の侵入を拒む高い防壁に囲まれた街の一角に、ネオン風の看板が掲げられている店があった。


 ゲーセン。


 ゲーセンと書かれた看板がある店には、大勢の人たちがひしめき合っている。革や鉄の防具を身につけた冒険者に、仕事をサボっている男性、買い物に行くと言ってきた女性などさまざまな人たちが集っている。その中でも大きな割合を占めるのが、冒険者たちだ。この街にいる半分以上の冒険者たちがこの場に集まっている。


 会場にいるすべての人たちは、ある一点を見ている。


 ステージの上で向かい合う2台の筐体と、壁にかけられた巨大なディスプレイだ。そして、二人の”戦士”たち!


『レッドオーシャン』の、この世界初の大会。その決勝戦が、はじまろうとしていた。


 ステージに立つのは、この前40歳を迎えたフランク = ヘルビッヒ。髪の毛は薄く冴えないおやじだ。フランクは緊張しているのか、神よ……、と祈っている。不安そうな表情だが、目はギラギラと輝いている。


 相対するのは、12歳の少女・リディー = グラッセだ。ツインテールにした金髪は、ディスプレイの明かりが反射してキラリと輝いている。腕輪や髪飾りなどのアクセサリーをゴテゴテをつけている。どれも子供でも買える安物だが、彼女のセンスのおかげで品がよく見える。幼い顔は覇気に満ちていて、鋭い眼差しをフランクに向けている。


 ステージ上部にあるスピーカーから、女性の声がする。店員のジャネットだ。小柄な体を大きく動かして、会場を盛り上げている。


「さあ、いよいよ決勝戦! どちらがチャンピオンに輝くのかかぁ~~~~!」


   ▼▲▼▲


 日本からこの世界に転生して12年。やっと、ゲーセンが好きになれそうだ。


 店の入り口の横に立ち、観客を、ステージを見回す。楽しそうなみんな姿に、感慨深くなる。


「どっちが優勝すると思います、店長」


 俺に話しかけた少女は、ヴィヴィだ。年は3歳上の15歳で、店員の証であるエプロン――胸のところに店名が書かれている。だが、その胸の大きさでずいぶんと伸びているが――を着用している。


「さあ? どっちでもいいから、早く終わらせたいよ……」


 これは本心だ。とっととゲーム大会なんてものを終わらせたい。


「もうー、またそんなこと言って。こんなときぐらい、素直になってくださいよー」


 ヴィヴィは俺の頬をつつく。


「はぁ……店長のほっぺ、ぷにぷにしてていいなぁー」


「つつくな。一応貴族なんだぞ!」


 彼女の手を押しのける。


「私と店長の仲じゃないですかー」


 ニコニコと笑顔を浮かべるヴィヴィは、またも俺の頬を指でつつく。


 店長と社員だろ! 周りに人がいるところで、変なこと言うな! 変な噂が出回ったら面倒くさいんだよ!


 俺は無言で彼女の指をはたく。


「大会が終わったら、トロフィー授与式だ。進行は覚えたんでしょ?」


 ヴィヴィはニッと笑うと、グイっと親指を俺に向ける。


「もっちろんですよ。ここで失敗したら、お客さんたちに叩かれますか……食堂で出される具なしスープ、しなびた野菜、呼んでも来ない店員」


 以前にやられたことを思い出したのか、ヴィヴィの落ち込んでしまう。


「噛まないように頑張れ」


「もう! そう言われると余計に意識しちゃうじゃないですか!?」


「優勝者の名前を噛んだら、大変だな」


 俺は悪戯心がわき、ヴィヴィにプレッシャーを与える。


「あ~! 本当に、店長は意地悪ですね」


 ヴィヴィは恨みがましい目で俺を見てくる。少し言い過ぎたかな。


 俺が、ごめん、と謝る。


「まあ、謝ってくれたならいいです」


 ヴィヴィは表情を和らげる。そして、ステージを見る。


「フランクさんもリディーちゃんも、どっちも頑張ってほしいですね」


「ああ、やっと大会が終わるな。できれば、この大会はこれっきりにしたいな」


 心底そう思う。ゲームで、しかもこんなに苦労するものは、もうやりたくない。


「いやぁ、それは無理じゃないですかね。負けた人たちが、次はいつやるんだ! って必ず聞きにきたんですよ」


 その言葉を聞いて、俺は思わず顔をしかめた。俺のことは気にもせず、ヴィヴィは楽しそうに語る。


「その人たち、負けたのに笑顔で楽しそうで。勝った人のことを応援して、その人が負けたらすぐに慰めに行ってるんですよ。みんなを笑顔にするゲームって、すっごくいいですよね!」


 もし次の大会をやらなかったら、きっと暴動ですよ、とヴィヴィは笑顔で言う。


 おいおい、定期的に大会開かなくちゃいけないの?


 俺は壁に寄りかかり、天井を見上げる。


 やっぱりやるんじゃなかった……。


「リディーちゃんとフランクさん、使用キャラを選んでくださぁあい!」


 司会者のジャネットの声で、ステージに置かれた2台の筐体に、リディーとフランクがそれぞれ座る。ステージ奥のディスプレイには、ゲーム画面が映っている。洗練されたデザインのゲーム画面には、数多くのキャラクターの顔がある。どれも個性的で、ほとんどは美形だ。


 はじめての格ゲーがこれほど人気が出たのも、キャラクターたちの格好よいからっていうのもある。


 ふと、会場がざわつく。


「店長見てくださいよ。リディーちゃんが、いつもと違うキャラ選んでますよ」


「へー」


 気のない返事を返すと、ヴィヴィは頬を膨らます。


「もう、少しは興味もってくださいよ! 店長なんだから!」


 興奮気味のヴィヴィには悪いが、興味がない。俺が興味があるのは、この大会が無事に終わるかどうか、だけだ。


 ざわざわとする観客の気持ちを代弁するように、ジャネットが興奮気味に言う。


「これはどういうことなんでしょうかぁ!? これまで使っていたマリーではなく、ボルドを選択! スピードタイプのマリーと、パワータイプのボルド! 正反対だぁ!」


 ヴィヴィは目を輝かせる。


「店長、どう思います! リディーちゃんってボルドも使えるんですか?」


「選んだんだから、使えるんじゃない」


「ちゃんと話してくださいよ。見たことないんですか? ボルドを練習しているの」


 どうなんですか!? とヴィヴィはグイグイと迫ってくる。興味津々な顔しているヴィヴィを相手にするのは、面倒くさい。


 周囲の客は顔をこちらに向け、会話を聞こうと狙いを定めている。


 ステージを見ろ。俺を見ても、意味ないだろ。


 ステージでは、自信満々のリディーが、筐体を見つめている。企みが成功したからなのか、その口元には笑みも俯瞰でいる。


 対するフランクは、動揺している。


「さあ! 驚いているのは私たちだけじゃない! フランクさんも、びっくりしてキャラクターを選択できていない! この大会はどうなるんだ~!」


 ジャネットが場を盛り上げていると、俺の近くにある扉が勢いよく開く。


 扉が壁に当たり跳ね返ると、なにかに当たり、扉が止まる。


 そこには、手で顔を押さえた女性――イネス = ヴィックスが立っていた。

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